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ミステリの祭典

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定価のない本

作家 門井慶喜
出版日2019年09月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 猫サーカス
(2019/12/18 18:28登録)
GHQ占領下の東京・神田神保町の古本屋街を舞台にしたミステリで、物語の発端は古書店主の事故死。崩落した古書の山に押しつぶされて亡くなっていたが、友人の古書店主の琴岡庄治が疑問を抱き調査を開始すると、不可解な事実が浮かび上がってくる。琴岡が専門に扱う古本は古典籍、つまり明治維新以前の和装本で、GHQの指令に基づく「金融緊急措置令」により華族たちが貧窮に陥り、これが一斉に放出された。この古典籍をめぐる蘊蓄、戦前から戦後にかけての古書業界の消息、さらに意外な真相をもつ事件の謎解きも面白いし、古典籍の蒐集家だった徳富蘇峰や太宰治などの実在の文士の登場もあって愉しい。随所でなされる日本の歴史観への言及も鋭く、「本を愛し、古典を愛し、そのことで国そのものを立ち直らせよう」とする当時の日本人たちの姿も印象深く見えてくる。古典は残るものではなく残すものだという思いも力強く迫ってくる。

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