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ミステリの祭典

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室町少年倶楽部
室町もの

作家 山田風太郎
出版日1995年08月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点
(2019/12/03 16:15登録)
 「室町少年倶楽部」「室町の大予言」以上2作収録の中編集。雑誌「オール読物」「小説新潮」の一九八九年一月号増刊、三月号にそれぞれ掲載。この次に来る十兵衛三部作のラスト「柳生十兵衛死す」が最後の室町物にして最終長編と言えなくもないので、いずれにせよ山風の小説としては最後期にあたるもの。この後著作家としては「半身棺桶」などのエッセイやインタビューに傾斜してゆきます。
 「薄桜記」の清冽さとはうってかわってイヤテイスト満載。まあ山風ですし。特にアレなのが表題作で、少年探偵団風ですます調のほのぼのから一転してのドロドロ展開。齢八歳の幼き将軍候補・三春丸(後の足利義政)をお忍びで連れ歩き、理想の将軍たらしめんと帝王教育を試みる十六歳の少年管領・細川勝元。下々の生活をつぶさに見せて、さてその結果はどうなったか? という作品。まあ父親がアレだもの、どう教育したってマトモに育つわきゃ無いよねえ。言っちゃ何ですが最初からムダだったと思います。
 「序の章」「破の章」「狂の章」の三部構成で、純真無垢な幼年期が四分の一ほど。あとは破局と責任放棄の果てのでろでろ状態。この小説自体は応仁の乱に突入したとこで終わりますが、乱は山名宗全・細川勝元の二巨頭死後もなお続きここでやっと半分といったところ。勝元の息子の妖管領・細川政元(幸田露伴『魔法修行者』に詳しい)が十代将軍・足利義稙を追放し、以後幕府自体がグチャグチャになってなし崩しに戦国期に突入していきます。このころ日野富子・足利義視の二人が半ばフィクサー化してるのが救われない。
 「序の章」を「さあ、これらの人々の未来には、何が待っているのでしょう?」と結んでいるのがまたイヤらしい。〈これらの人々〉の争闘がいかに室町幕府に祟ったか。風太郎の笑い声が聞こえるようです。
 足利の太陽王たる魔童子・三代将軍義満没後の黄昏に向かう時代を描いた作品集。このころ作者も七十代に近く、巧緻さは磨かれても全盛期の艶が文章から失われてゆくのは如何ともし難い。それを生かす境地を求めて辿り着いたのが室町ものであり、「幽玄」というキーワードだったと思われます。
 各サイトの評価は高いですが、その意味で点数は6点でも下の方。とは言えなかなか良く出来た中編集です。ところで「大予言」の方の各未来記って、どこまでがウソッパチなんでしょうね。

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