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ミステリの祭典

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フーガはユーガ

作家 伊坂幸太郎
出版日2018年11月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 7点 麝香福郎
(2024/02/04 21:52登録)
仙台のファミリーレストランで高杉という男に向かい、常盤優我はこれまでの半生を語り始める。優我は双子の兄で風我という弟がいる。勉強が得意で運動が苦手の優我。兄とは逆の風我。彼らは小学校二年生の誕生日に、二人が持っている特殊な能力をはっきり自覚する。年に一度の誕生日にだけ、二時間おきに二人の身体が瞬間移動してそれぞれに入れ替わるのだ。
無害でおとなしい弱者に対し、いわれなき暴力や強権的な態度をとる人間が伊坂作品には多く登場する。そして彼らは悩まされる側の反撃を描くのが伊坂作品のテーマの一つだ。
それにしてもなぜ優我は、自分のことを克明に語られねばならないのか。シロクマのぬいぐるみ、東北新幹線の不通、忘れ物、ワタボコリとの関わり、誘拐事件、そして二人の特殊能力。断片的なエピソードや、散りばめられた片言隻語と優我の真意が結び付いた時、予測もつかない結末へなだれ込む。

No.1 6点 猫サーカス
(2019/11/26 19:20登録)
決して明るい物語ではない。それでも読み始めるとどんどん引き込まれ、最後に本を閉じた時、この世界が普段よりも少しいとおしく感じられた。主人公の常盤優我と双子の弟風我は、父親から虐待を受けながら育つ。過酷な環境を力を合わせて生き抜く彼らは、やがてある悪に立ち向かっていく。物語を駆動させるのは彼らが抱える秘密。実は2人は毎年の誕生日だけ、2時間おきに瞬間移動し、互いのいる場所が入れ替わる。一見すると突飛な設定に説得力を与える巧みな展開は、世に言う「伊坂マジック」の真骨頂。平凡な優我と、冒険心に満ちた風我。正反対な双子の成長物語は、悲しい過去を持つ兄弟を描いた初期の作品「重力ピエロ」を思い出させる。「僕の弟は僕より結構、元気です」という序盤の優我の言葉が終盤に再び語られる時、2人の深い信頼がひときわ胸を打つ。悪との対決は、繰り返し扱ってきたテーマ。主人公を単純な正義の側面に置かないのも、伊坂作品の持ち味。現実社会の厳しい問題を投影したかのような作品も少なくないが、目指しているのは普遍的で、皆が寄り添えるようなおとぎ話のような気がする。

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