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ミステリの祭典

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東京大洪水
『ジェミニの方舟ー東京大洪水』を改題  災害サスペンス3部作

作家 高嶋哲夫
出版日2008年07月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 メルカトル
(2019/11/24 22:35登録)
大型台風23号が接近。東京上陸はないとの気象庁発表。が、日本防災研究センターの玉城はコンピュータ・シミュレーションで24号と23号が合体、未曾有の巨大台風となって首都圏を直撃することを予知。要請により荒川防災の現場に入る玉城。設計担当者として建設中の超高層マンションに篭もる妻・恵子。残された子どもたち。ひとつの家族模様を軸に空前の規模で東京水没の危機を描く、災害サスペンス3部作、堂々の完結編。
『BOOK』データベースより。

超巨大台風が首都を襲うパニック・サスペンス。力作です。
滑り出しは面白みのない文章で、主人公一家の家庭内不和などがチマチマと語られ、先行き不安を感じました。それが台風24号が発生した辺りから面白みのなさが硬質な文体に私の中で脳内変換され、スケールもぐんとアップしてスピード感を増します。二つの台風が一つになるという前代未聞の緊急事態に、玉城と妻恵子、その子供と祖母がそれぞれの立場でどう立ち向かうのかに焦点を当てて、マクロ、ミクロ両面から迫ります。その臨場感は半端なく、窮地に立たされた人間たちのドラマは生々しく、まさにページを捲る手が止まらないとはこういう事を言うのだと思いました。

実際には気象庁がこれほど不甲斐ないはずはないでしょうけどね。しかし、普段はあまりに普通な玉城の決断力やリーダーシップの発揮ぶりには胸のすく思いがします。自衛隊を始め、都知事、区長、災害対策本部など目まぐるしくシーンが入れ替わり、嫌が上にもサスペンスフルな展開を盛り上げます。

今年は台風19号が関東甲信越から東北を直撃し、各地で大きな被害を受けました。そして河川の氾濫、堤防の決壊がいかに深刻な問題を齎すのかという教訓を得ました。これは他人事ではありません、この物語の様に大都市でも水没が起こらないとは言い切れません。災害時に各個人が取るべき行動を今一度確認すべきではないでしょうか。日本に生まれた宿命として、このことを肝に銘じるべきだと思います。

一気読み推奨、映画化希望。

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