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ミステリの祭典

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時を壊した彼女 7月7日は7度ある

作家 古野まほろ
出版日2019年10月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2019/11/18 12:21登録)
(ネタバレなし)
 2020年の7月7日。部長の楠木真太たち、久我西高校吹奏楽部の三年生5人はその夜、校舎の上で七夕を祝おうとしていた。だがそこに未来の世界から、2人の少女ハルカとユリが来訪。未来人は当初、自分たちの精神のみを過去に転写する予定だったが、なんらかの要因ゆえに当人たちの実体さらに広義の時間移動装置そのものも2020年に出現。その影響を受けた衝撃で、真太が死んでしまう。吹奏楽部の面々は事故の原因となった未来人の2人と対峙。きびしい制約のなかで回数限定ながら<時間移動>がまだ可能と知った一同は、未来人と現代人で上限4人の時間遡行チームを組み、真太が死なない状況への歴史の書き換えを図るが。

 2018年はSNS監視社会の舌禍に巻き込まれ、いまいち活動が鈍かった印象のあるまほろ先生だが、今年はこんな結構な力作を出した。全書判二段組み、500頁以上(原稿用紙1000枚以上とか)のボリュームは伊達ではない。
(まあもともと、まほろ作品には大部の著作も多いですが。)

 それで本書は「運命と戦う高校生達のタイムリープ×本格ミステリ」と帯に謳われている。そこで、時間遡行のたびにPC内のテキストファイルを上書きするように書き換えられる歴史、それにあわせて時間を戻る当事者以外の記憶は初期化、もちろん人類の歴史の大幅な改竄は回避しなきゃならない。しかも本作独自の文芸として、時間逆行者は脳内に毒素が溜まるので、解毒剤の残りの限りから、タイムリープは有限……と細々なSF設定が用意され、それらの命題にひとつひとつ対応していく辺りの作劇は実に丁寧。

 でもこれどこで、本格ミステリ(フーダニットのパズラー)に転調するの? しかもやり直しの回数を主人公たちがギリギリまで使い切るのは見え見えなんだから、予定調和の筋立ての確認に付き合うのは読者にとってはただの単純作業だよね? 繰り返しで笑わせるドリフのコントじゃあるまいし、という思いも、途中まで芽生えもした。が……さすがソコはまほろ先生、中盤からかなりの大技を用意して、こちらの眠気をぶっとばしてくれます(ま、この辺は例えるなら、パソゲーの分岐シナリオでいきなり過激編が出てくるみたいな感じのノリでもありますが)。

 でもって最後にはちゃんと謳い文句通りの小説カテゴリーに着地。ごく一部だけ先読みできる部分はありましたが、青春SFサスペンスの中からじわじわと精緻なロジックを詰め込んだパズラーが浮かび上がってくる緊張感は並々ならず、これこそが今回やりたかったことでしょう。
 そして犯人捜しのミステリとしてのマターを十全に消化しながら、最後にまた改めて時間SF、そしてキャラクタードラマに還る流れも良い。何のかんの言っても実質一日で読み終えさせられました。 

 ジャンルはSFでも特殊設定のパズラー分類でもいいんだけど、個人的な観測では上質な犯人捜しフーダニットの要件を充分に満たしながら、それも含めて最終的には固有の世界観のビジョンが紡がれるSFだと思う。とりあえずそっち推しで。

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