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ミステリの祭典

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死者の伝言板

作家 田中文雄
出版日1991年02月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2019/11/15 19:23登録)
(ネタバレなし)
 30歳の美人事務員・新田麗子は、自分が限られた余命の難病と知った。麗子は元恋人で、かつて長編ミステリ「死者の伝言板」を合作した男・伊東五郎に再会したいと思い、当人同士だけに分かる意味合いの伝言告知を新聞に載せた。一方、当の伊東は今は若い妻・里子と新生児の一彦とともに会社員生活を送っていたが、新聞の告知に気付いた彼はその指示に従って元の彼女との再会に応じようとする。だがその頃、都内では「死者の伝言板」の作中ヒロインであり、現実の麗子の分身と言える「津田冬子」がミステリの流れに沿った連続殺人を重ねていた。

 連城、泡坂、栗本と並ぶ「幻影城」スクールの一員だった田中文雄が、自分だってまともな技巧派パズラー書けるわいと言って(かどうかは知らないが……)著した「描き下ろし長編本格推理」。
 既存の創作物(作中の現実ではまだ未刊行)の流れのとおりに進行する連続殺人、作中人物の不可解な行動、思いも寄らぬ後半の展開……とお膳立ては非常に魅力的だが、いかんせん、真相が無理筋すぎる。
 いや終盤の犯人の意外性はその部分だけ取り出せばこの上無くショッキングだが、いろんな意味で作中のリアリティとして、この真相、この真犯人はありえんでしょう! という出来。
(あとネタバレになりそうだからあんまり言えないけど、この作品、確実に作者の東宝プロデューサー時代の……(中略)。)

 作者が終盤まで読み手を楽しませようと腐心したことは察しますが、謎解きミステリとしての必要最低限の整合性までうっちゃっちゃ、ダメかと。
 こういうゆるさもまた味だよ、と言える度量のある人にのみお勧めします。自分もその意味では、まあ決してキライではないけれど、出来の良い作品とは口が裂けてもいえない。

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