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ミステリの祭典

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慟哭は聴こえない デフ・ヴォイス
デフ・ヴォイスシリーズ

作家 丸山正樹
出版日2019年06月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 猫サーカス
(2019/11/12 19:26登録)
謎解きの面白さはほとんどないが、すみずみまで神経が行き届いて読ませる。手話通訳士の荒井の視点から描く、ろう者たちの苦悩の物語。妊娠したろう者の妻と夫の困難を捉える表題作、イケメンとして人気を博すろう者のモデルの葛藤「クール・サイレント」、行き倒れたろう者の人生を荒井と刑事がたどる「静かな男」、聴覚障害者の雇用差別をめぐる法廷劇「法廷のさざめき」の4話が収録されている。これほど温かで切ない小説であるとは思わなかった。ひとつひとつの場面がこまやかで、繊細で、複雑で、奥が深い。聴こえない人々の思いがここには凝縮されている。聴こえることと聴こえないことに何と大きな隔たりがあることか。障害を抱える者も抱えない者も互いに歩み寄り、支えあうことの何と難しいことか。聴こえる者が聴こえない子供をもつこと、聴覚障害者の家庭に生まれた者たちの不安と恐れと悲しみと喜びが、どれほど深いか切々と謳いあげる。読む者の心を揺さぶる感動作。

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