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ミステリの祭典

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あしながおじさん達の行方
漫画

作家 今市子
出版日1999年06月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 クリスティ再読
(2019/10/30 12:02登録)
久々に「漫画でミステリ」な書評をしよう。今市子というと、代表作の「百鬼夜行抄」は、漫画ならではの叙述トリックがあったり、時系列を並べ替えてミスディレクションするのが常套手段だったりとか、手法としてのミステリを駆使した漫画なんだけども、内容的にはせいぜいカーナッキ主義というか、心霊妖怪+人間の悪意の混在型なので、心霊ホラー系でミステリタッチが優れた漫画ではあっても、本サイトで取り上げるのはややためらわれる。じゃあ超常なしのミステリとしていい作品があるか?というと、本作はいかが。一応BLだけど、男性が読んでもそう抵抗感がないくらい極めてライトなBLなので、気にしないでほしい。
施設で育った吉岡春日は中学卒業を機に、今まで陰から自分を援助してくれていた「あしながおじさん」の元にお礼と高校に進学しないことを詫びようと訪問した。しかしその住所には別人が住んでいて、困惑した春日は管理人室を訪れる。管理人の鈴木夏海は春日に、自分が「あしながおじさん」の一人であることを打ち明けるが、あしながおじさんは5人いるらしい...春日を高校に行かせるため、夏海は春日を引きとって同居させることにするのだが、夏海に執着する同い年の少年ヤスヒロとも一緒に住むことになり、3人の奇妙な同居生活が始まる。さらにマンションの住人で夏海とも腐れ縁のオーナーの養子山本恭兵など、複雑な人間関係が見えてきて、しだいに「あしながおじさん」たちが共有する秘密と春日を援助する理由が明らかになってくる...
というわけで、「ルーツ探し」ものなんだけど、この5人の「あしながおじさん」たちの秘密を、夏海は春日に隠し通そうとして、いろいろと嘘をついてはバレて..が繰り返される。この「嘘」は春日を傷つけるようなものではないのだが、嘘と小出しの真実を通じて画面が大きく切り替わるようなミステリらしい面白味が横溢している。その結果、あしながおじさんたちとその周囲の人々のキャラクターが深まっていき、実に人間臭いドラマを演じていくことになる。

僕のあしながおじさんがばらばらになっていく。手紙の上の二次元のあしながおじさんが、しだいに骨格と肉づきを持った生身の人間に再構築されていく。知れば知るほどどんでもない「あしながおじさん」で、時にはこわいくらい生々しくて見たくない面も見せられるけど、こわいのに目が離せない...

という春日の感慨が本作をきわめて要領よく要約している。
まあこの「見たくない面」には、このあしながおじさんたちの間のキーワードとして同性愛があるためでもある。BLだからね、夏海も高校の元恩師がゲイバーを開いてて、女装してアルバイトする話、夏海と山本恭兵の間の初体験話、恭兵の恋人である秋吉薫(女性的な男で花を背負って登場する)とのゲイ婚話とか、話題は豊富で「友情以上」の男同士の関係性みたいなものをうまく描いているのも、なかなかリアルな良さがある。
というわけで、BLだからって、漫画だからって、ナメちゃ、いけない。「百鬼夜行抄」の宣伝文句は「四季折々に妖魔あり」だけど、「BLマンガ折々にもミステリあり」というべきか(苦笑)。

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