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ミステリの祭典

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ブレイン―脳

作家 ロビン・クック
出版日1981年05月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 tider-tiger
(2019/10/30 00:33登録)
~放射線科の医師マーティン・フィリップスの勤務する医療センターに視覚、嗅覚の異常、歩行困難、癲癇様発作などの症状を訴える若い女性患者が続出していた。脳に起因する症状なのだろうが、はっきりとした病名が付けられない。フィリップスは友人が開発したコンピュータープログラム(人工知能のようなもの?)を駆使してその謎に挑むのだが……。~

読んだのがちょうど牛海綿状脳症、いわゆる狂牛病騒動のあった頃だったので、これかななどと早とちりをしたが、冷静に考えるとそんなわけはなかった。本作が書かれたのは1981年(アメリカ)。
医学面では古びてしまっているところがあるが、現代においても変わらぬ医療倫理の問題を扱っている。前に書評した『コーマ―昏睡』もかなり不気味だったが、本作はそれをさらに上回る不気味さがあった。物語の構造はコーマとほとんど変わらず、コーマのエンタメとしての欠点もそのまま継承してしまっている。
病院で不審な事例が相次ぎ、主人公たちが原因を究明しようとする前半部にかなり頁が割かれる。その原因は予想外のところにあって、後半はアクションが少しありつつも展開が急に早足となっていささか尻切れとんぼに物語は閉じる。
主人公のフィリップス医師にはコーマのヒロインのようなアクはない。良くも悪くも薄い。感情移入はできないが、さりとて嫌悪感も湧かない人物だった。ただ、終盤にかなり酷いこと(のように私は思った)を一つやらかすので結果としてはこちらも印象があまりよくない。
医学ミステリに興味のある方ならそれなりに楽しめると思う。興味のない方にはあまり用のない作品かもしれない。

ロビン・クックはどことなくマイクル・クライトンに通ずるものを感じる。二人とも医学博士で、舞台背景の描写がしっかりしており、雰囲気や人物が紋切り型なところなども似ている。
違うのはクックはクライトンほどのエンタメ精神、サービス精神はなく、テーマ(医療倫理)に重きを置き、テーマを軸に物語を構築している印象が強い。そして、解決がない。問題提起のための小説といった感がある。

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