(2019/10/28 20:56登録)
(ネタバレなしです) 日影丈吉(1908-1991)の晩年の1987年に発表された、最後から2番目の長編作品です。もっとも最終出版の「夕潮」(1990年)(私は未読です)は1979年に前半部が雑誌掲載されるもその雑誌出版社が倒産して単行本化が大きく遅れたという事情があるので、執筆順では本書が最終作の可能性があります。被害者の側に凶器を持って立っている女性という状況の殺人事件を扱い、真犯人は別にいると考える主人公の内心は全て読者に提示されますがその推理は根拠薄弱です(妄想と自認しています)。本格派推理小説ではあるのですが読者が犯人当てにチャレンジできる伏線を用意しないまま真相が明かされているので謎解きにはあまり期待しない方がいいと思います。文学的と語られることの多い作者ですが本書は「女の家」(1961年)や「孤独の罠」(1963年)と同じく、文学的要素が強過ぎてミステリーらしさが希薄過ぎるように思います。私はこの作者の良き読者とは到底言えませんが(未読作品も多いです)、謎解き重視の「真っ赤な子犬」(1959年)と謎解きの面白さと文学要素が両立できた「内部の真実」(1959年)あたりを勧めます。
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