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ミステリの祭典

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悠木まどかは神かもしれない

作家 竹内雄紀
出版日2013年11月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2019/10/24 13:55登録)
(ネタバレなし)
 名門中学校を狙う秀才の小学生が集う学習塾「アインシュタイン進学会」。そこに通う小学五年生の「ボク」こと小田切美留(びる)は、同学年の塾仲間で、さばけた性格の人気者ながら孤高の雰囲気の美少女・悠木和(まどか)ジョシ(女史)のことが気になる。だがそんな塾内で、ある小さな事件が発生。そして悠木ジョシ自身も奇妙な行動を……。

 文庫オリジナル作品。すでに他分野で別名で文筆仕事の実績がある著者が、新潮文庫編集部に同部署では禁じ手とされている原稿を持ち込み。その結果、評価され、鳴り物入りで刊行されたそうな。
 刊行当時は、本の本体や帯周りについた各方面からの推薦文や「日本文学史上最低の探偵登場」とか「胸キュン系バカミスの大傑作!」などの思わせぶりな惹句、そして何より当時まだ人気が冷めていなかった大ヒットアニメ『魔法少女まどかマギカ』を思わせるあざとい題名ということで(一応説明しておくと、同アニメの主人公の少女の名前は鹿目まどか、演じる声優は悠木碧。アニメの主題も「神」……ではないが、人間から高次の存在への変貌などが含まれる)、多大な反響を呼び、そして当然ながらここまでハデ? なことをやった分、相応に叩かれたようである(一方で、この作品を褒める声もちゃんとあった)。
 とはいえこっち(評者)は、6年前にはほぼ完全に国産ミステリ全般から離れていたので、そんな騒ぎがあったこともつゆ知らず、先日初めてブックオフでこの作品を認知。裏表紙の前述のキャッチ類が気になって、初版を、まだ108円の税込値段の時に買ってきた。

 で、まあ、思いついて昨夜読んでみたが、2時間もかからずに読了可能な短さ。内容は独特の躍動感は抱かせる文章で筋運びだが、それほど深い内容でもない。
 現時点で50近いAmazonのレビューの中には「小学生の読書感想文用にはいいかも」というのもあったが、悪い意味や嫌味ではなく、まさにそういう感じのオトナが読んでもいいジュブナイル、ちょっと日常ミステリ風味、という感触である。
 しかし「日本文学史上最低の探偵登場」も「胸キュン系バカミスの大傑作!」も明らかに誇大広告で、この作品をどこをどう逆さにして振っても、そんなもの出てこない。これはあちこちから文句を受けても仕方がない。6年前の時点ですでに出版不況は慢性化していたハズだから? 新潮社、あえて炎上商法を狙ってこんな売り方をしたのかと思うほどである。それほど作中のミステリ部分は謎の提示も真相もそこに至るプロセスも、実に他愛ない。

 ただまあ、目線を低くして一編の、21世紀の小学生主人公もののジュブナイルとして読むならば、ちょっと惹かれる部分はある。昭和時代の少年漫画なら脇役の参謀格かイヤミキャラあたりのポジションを与えられていたであろう秀才の児童ばかりを物語の場に集め(現実の世界が学歴社会なのだから、そういう偏差値の高そうな子供たちの集う学習塾をストーリーのメイン舞台にするのもひとつのリアルだと思う)、そしてそんな子供たちに託される将来の役割について、作中のある大人の登場人物からまっすぐな期待の言葉をかけられるところなんか、ダイレクトに良かった。
(たぶん自分はいいトシしていまだ、自分自身で咀嚼した上で納得できるものならば、小説世界の中に、どこか薫陶みたいなものを求めるタイプの読者である。)
 小学生ラブコメとして読むなら、肝心のヒロインのまどかは十分に可愛いし、主人公の美留との青すぎる恋模様の成り行きにも微笑む。

 大した作品じゃないとは思うけど、たまにはまあこんなのもいいな、と感じる一冊。
 地味に売られていたら絶対に一生出あうこともなかった作品だろうから、その意味じゃ新潮社のアコギなセールス方法も間違ってなかったのかもしれんね? 評点は0.5点くらいおまけ。

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