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ミステリの祭典

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もうひとつの『異邦人』 ムルソー再捜査

作家 カメル・ダーウド
出版日2019年01月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 小原庄助
(2019/10/24 10:52登録)
下敷きになっているのは、あまりにも有名なカミュの「異邦人」だ。名作を端役の視点から書き直す作品はよくあって、この小説の主人公は、「異邦人」の中であっけなく殺されてしまう名無しのアラブ人の弟。
カミュ作品の主人公ムルソーは、殺人の理由を聞かれて「太陽のせいだ」と答えるのだけど、遺族からすれば腹が立つわけで。おまけに、兄の死にとらわれた母親は、弟である自分を兄の代替物、もしくは兄のために復讐を果たす傀儡にしか思っておらず、語り手の(僕)は、つらい人生をたどることになったのだ。
作者のダーウドは、この小説の中で、名無しのアラブ人として命を奪われた青年の名を取り戻し、植民者であるフランスのムルソー(ひいては作者のカミュ)によって狂わされた(僕)のアイデンティティーを回復させようと試みている。
それは同時に、植民地時代と解放戦争時代のアルジェリアの苦難の道を描く過程にも他ならない。左から右へと流れるフランス語に対して、右から左へと流れるアラビア語。記述のスタイルさながら、”対”の概念を駆使した意欲的な書き換え作品だ。

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