(2019/10/23 22:00登録)
「黒蜥蜴」も乱歩&三島でやった余勢を駆って、「美的殺人」という面では先駆者であり最大のアイコンである本作はいかが。20世紀の初頭あたりには、全世界的にサロメが大ブームになったわけで、「世紀末、病んでる」の代名詞みたいなものである。もちろん日本にだってすぐに入ってきて、初めての訳は森鴎外だし、松井須磨子がサロメ演じてたりする。最近でこそ知名度が落ちているけども、唯美とか耽美とか、その手に憧れるなら必須科目である。岩波ならビアズリーの、アール・ヌーヴォーの代名詞の挿絵も同梱。挿絵を肴に頽廃感の相乗効果を味わえばいい。
で、本作をミステリとして読むなら、「異様な動機」というのがまずポイントだと思う。サロメはヨカナーンに恋するがゆえに、口づけを拒まれたがゆえに、その首を刎ねて生首にキスをする....ネクロフィリアといえばそう、サディズムといえばそう、女性自身による主体的な性欲のアカラサマな主張なのも当時では刺激的なわけだし、もちろん黒蜥蜴だってこのサロメの子孫のわけだ。ならば明智はヨカナーンとして、サロメの接吻を拒み続けて、黒蜥蜴に首を刎ねられてから、接吻される...評者どうもサロメと黒蜥蜴がごっちゃになっているようである(苦笑)。そういう読み方も、いいじゃないか。殺人物語に美とポエジーを求めるのならば、一度は読んでおく必要のある作品であることには、間違いない。
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