(2019/10/16 21:10登録)
(ネタバレなしです) 明治時代を背景にジャーナリストの前沢天風を主人公にした開花帖シリーズは全5作が書かれましたがその第1作が1984年発表の本書です。但し最終章の後日談を読むと当初はシリーズ化を意識していなかったのではと思いましたが。この後日談には実に驚かされるのですが、それにはそこに至るまでをしっかり読むことが肝要です。作中時代は明治20年(1887年)、経済の活況策のないまま庶民生活の犠牲の上に近代国家の道を歩む日本社会が巧みに描かれています。犯人探しではありますが扱っている事件が連続娼婦殺人事件のためか一般的な本格派推理小説のように動機のありそうな容疑者たちが最初から顔を揃えているわけではありません。浮かび上がった容疑者の容疑を晴らしてはまた新たな容疑者を探すという展開で、読者が推理に参加する余地があまりありません。天風の推理も論理的ではなく、容疑者の人柄を評してこの人物の犯行とは思えないと判断したりしています(とはいえ無実の裏づけはとってます)。最後は容疑が晴れない容疑者をおとり捜査的に真犯人と特定しているので本格派というよりスリラー小説と個人的には分類します。
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