不死の怪物 |
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作家 | ジェシー・ダグラス・ケルーシュ |
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出版日 | 2002年01月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | |
(2019/10/15 04:29登録) (ネタバレなし) 第一次世界大戦が終結して少し経った、英国サセックス州の一地方ダンノー。名門である旧家ハモンド家の次男オリヴァーは、三ヶ月前に兄のレジーを失い、新たな若き領主の座に就いた。だがある冬の夜、ハモンド家に何世紀にもわたって語り継がれる謎の怪物が出現。オリヴァーとその妹スワンヒルド(スワン)とも親しい土地の者が、犠牲となる。ハモンド兄妹、そしてオリヴァーの幼なじみでスワンの婚約者ゴダート・コヴァートは、およそ30年ぶりに出現した謎の怪物に対抗するため、美貌の霊能者にして心霊探偵であるルナ・バーテンデールを招聘するが。 1922年の英国作品。短い時で30年、長ければ数世紀にわたってハモンド家の周辺に永劫の呪いのごとく雌伏し続ける謎の怪物。しかもその怪物は、その生存とともにハモンド家の栄華を保障するという妖しくもおぞましい伝説があった。 美貌の霊媒探偵ルナが「ある方法」で探り出した謎の怪物の伝説の歴史は千年以上にもおよび、かなり有名な神代の神話にまで遡るが、それでも終盤ぎりぎりまで肝心の正体の実像は明らかにされない。しかし途中で現実世界の三次元を越えた四次元、さらにその奥の「五次元」という印象的なキーワードが提示され、さらにある主要な登場人物たち2人が、別のメインキャラ、そして読者の目線から見て「いったい何を……!?」という行動をとり、そこで何をしていたのか、両人は何を見たのか? が強烈な謎となる。 この辺りのホラー・ミステリ的なフックは、なかなか強烈だった。怪物の正体は真相が明かされれば、思ったよりは……と感じる読者もいるかもしれないが、当方(評者)などは、いくつかのミスディレクション? によって別の方向に考えが及び、かなり意外であった。前述のキーワード「五次元」の斜め上? の真実も、この時代としてはかなり尖鋭的な文芸・思想であったと思える。 フィジカルな意味での格闘、戦闘という意味ではないが、魔性の存在をオカルト学術としての論理や知見で解析し、対抗策を見いだしていくいう意味では、これはまぎれもない正統派・王道のアクションホラー。キングやクーンツ、菊地秀行や澤村伊智などに通じる、人外の悪夢を主題としながらも、それに向き合おうとする人間の逞しさも語ろうとする、しっかりと陽性な賞味部分がある。 荒俣宏の解説によると、本作は、荒俣の盟友でこの本の訳者である野村芳夫ともども若い頃(1960年代後半)に原書で読んで、感銘を受けた一作だったとのこと。それゆえ30年来、邦訳紹介したかった念願の作品だったそうだが、21世紀の初頭にようやく翻訳刊行された。さらに現在ではその文庫本の発売からまた、20年近い歳月が経ってしまったが、内容的には、ネタそのものはともかく、鮮やかなキャラクターの布陣、そしてその造形と描写、さらにサスペンスフルなストーリーのデティルを緻密に埋めていく普遍的な作劇など、完成度の高い物語はちっちも古びていない。 (ただ、怪物の正体というか、真相が分かったあとになると、作中のリアリティとしてひとつ気にかかる点がある。事件後の××の問題は、どうなったのだろう?) 作者はほとんどこれ一本で幻想文学史に名前を残したというが、その評価にふさわしい一作といえる。 |