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ミステリの祭典

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007/オクトパシー
007 旧題『007号/ベルリン脱出』

作家 イアン・フレミング
出版日1966年01月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 クリスティ再読
(2019/10/11 00:10登録)
二冊ある短編集の後の方のもの。たぶん007の小説で一番入手性が悪い本だろう(「007号世界を行く」の2冊の旅行記はどうも簡単に手に入りそうにない..)。短編3作にフレミングによるエッセイ「スリラー小説作法」とO.F.スネリングの「007/ジェイムズ・ボンド報告」から抜粋して構成した「007号のすべて」を収録。なので水増し本である。しかし、短編3つがどれも素晴らしい。
「ベルリン脱出」は原題「リビング・デイライツ」で映画のタイトルに使われている。東側に潜入したスパイの脱出をボンドが援護する話で、スナイパーとしての駆け引きが見どころ。ハードボイルド色が強くて、タイトな良さがある。
「所有者はある女性」(旧題「007号の商略」)は、イギリス情報部に潜入したソ連スパイの報酬として、カール・ファベルジェ作のロシア皇帝所縁の工芸が譲られた。現金化のためサザビーズで競売にかける機会を利用して、ソ連スパイの地区主任を見破ろうとする話。舞台はスノッブで派手で、007らしいがボンドの仕事内容は地味。でもこの意外な地味さが、いい。
「オクトパシー」(旧題「007号の追及」)は、戦争末期のドサクサにナチの金塊を強奪した元情報部員を捕らえるのに、ボンドが一役買う話。ボンドは狂言回しで内容的には元情報部員の回想と、ジャマイカで隠棲するこの男の現在の暮らしぶりが主体。冒険者の諦念めいたものを感じさせる。この主人公、ボンドのB面の人生みたいなものだろうな。
というわけで、3作の短編がそれぞれ独自の味わいで、面白く読める。評者長編よりも好きなくらいだ。タダの冒険アクション作家ではないフレミングの懐の深さを楽しもう。
(さて007コンプはあと「ドクター・ノオ」だけ。「007号世界を行く」はちょいと厳しい。「チキチキバンバン」どうしよう?)

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