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ミステリの祭典

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おあついフィルム
私立探偵シェル・スコット

作家 リチャード・S・プラザー
出版日1983年01月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2019/10/04 14:42登録)
(ネタバレなし)
 私立探偵シェル・スコットは、ハリウッドの「マグナ映画」の仮装パーティに招待されていた。先日、同映画会社の社長ハリー・フェルドスペンの依頼に応え、上首尾な成果を上げたお礼だ。本名不明の銀貨面の美人とも親しくなり、ご機嫌のスコット。しかし、近所に住む芸術家で「疫病神」と渾名される嫌われ者の巨漢ロージャー・ブレークにからまれるという、不愉快な一幕もあった。だがそのブレークがパーティのさなかに別室で、何者かに喉を切り裂かれて殺された。翌日、スコットは、ブレーク殺しの嫌疑をかけられるとおののく若い娘ハリー・ウィルスンから、助けを求められる。

 1951年のアメリカ作品。『消された女』に続くシェル・スコットシリーズの第二弾で、前回の若い娘の失踪事件にかわり、今回はハリウッド周辺で起きた恐喝犯罪にからむ殺人事件が物語の主題になる。
 第一作は定型の軽ハードボイルドかと思いきや妙な勢いと熱気があったが、そちらにくらべて今回は割と、良くも悪くも端正にまとめられた感じ。
 ミステリ的な趣向は、犯罪が形成される過程を手がかり・伏線にしたフーダニットだが、その辺はのちのちの赤川次郎でも書きそうな水準作レベル。面白いといえば面白いが、作中でスコットがさも意外そうに驚くほどセンセーショナルなネタじゃないし、そもそも同じ方向への仮想は、警察の方ではまったくしていないの? という感じもある。

 そういうわけで今回はあんまり出来の良い作品とは思えないが、まともに依頼料の取れる仕事も成立していないうちに、メインゲストヒロインのハリーを救おうと奮闘するスコットの描写は普通にほほえましい。
 スコットを狙い追い掛ける荒事師コンビや、その親玉のギャングのボスなんかもまあまあ面白いキャラにはなっている。

<余談その1>本書はもともと「日本版マンハント」の後期の号に一挙掲載された長編の翻訳を20年以上経ってから、当時の中央公論社の新たなミステリ&読み物叢書「C・NOVELS」の初期ラインの一冊として書籍化したもの。当時はこんなものを発掘、拾ってくれる企画のフットワークの軽さが嬉しかったものの、同類の後続作(日本版マンハントとか別冊宝石とかからの発掘)はなかった。残念。

 しかし本書(C・NOVELS版)は下品な表紙だね。
「国内お下劣ミステリ表紙&ジャケット大賞」のファン投票があったら、評者はまちがないなく本書を最優秀候補に選ぶ。

<余談その2>本書(C・NOVELS版)の巻末には訳者・田中小実昌のかなりスーダラな感じのエッセイ風あとがきがついており、その中でスコットシリーズの第1作の内容を「『消えた美女事件』で、はっきりおぼえてないが、ビルの窓から、ひょいと外を見たら、空中を美女の死体がふわふわ浮いてながれていたみたいなストーリイだった。」と書いてますが、違います! そんなオモシロそうな趣向は『消された女』のどこにもありません。
 ……もしかするとこの広い世の中のどこかには、本書『おあついフィルム』を先に手にしてこのあとがきにダマされて、ポケミスの『消された女』を読んで怒ったミステリファンとかもいるんだろーか?

<余談その3>シェル・スコットは、例の藤原宰太郎の「世界の名探偵50人」にも紹介されている、世代人にはメジャーな? 探偵。
 ちなみにその「世界の名探偵50人」の中では、スコットのキャラクターのトレードマーク的なシンボル的に彼の事務所に貼られている大判のヌードピンナップ、さらに愛玩している熱帯魚の話題が出てくる。
 が、本書『おあついフィルム』の中でスコットは前者のピンナップ(勝手にヌードモデルの美女に「エミーリア」と命名している)に飽きが来たそぶりを見せているし、後者の熱帯魚の水槽は悪党のためにさんざんな目に合ってしまう。
 つまり第三作目以降がどうなるかはまだわからないけれど、どっちもスコットシリーズの普遍的なシンボル、アイコンとして、とりたてて話題にすべき事項でもないかもしれない? 藤原宰太郎がきちんとシリーズを読んでキャラクター紹介の原稿を書いたのかどうか、おいおい検証してみよう。

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