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ミステリの祭典

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偽装特急殺人旅行

作家 斎藤栄
出版日1982年01月
平均点4.00点
書評数1人

No.1 4点 人並由真
(2019/09/27 10:09登録)
(ネタバレなし)
 大企業GNEを経費の乱用ゆえに馘首された相馬正男、師匠から破門された奇術師の卵・小森貞夫、無免許医療が発覚した下城照明、自称催眠術師の神原国平、特急「みずほ」の食堂車の美人ウェイトレス・宇津木かおり、日本交通センターのOL・村上美登里。私立「栄胞高校」の元学友だった6人の若者は、相馬の提案を受けてGNEが開発した画期的な新技術のデータを強奪。一億円払わなければこの情報をライバル企業に渡すと恐喝した。作戦は障害を乗り越えて成功しかけたに見えたが、奪った一億円の現金を一時的に預かった小森を、正体不明の男女が奇襲した。自分が死んだように敵を欺いた小森は地中に埋められかけるが、その際に頭上をそっと見あげると、顔の見えない謎の女の尻肌に小さな黒子があった。九死に一生を得た小森は、奪取を逃れた半額の五千万だけを携えて逃走。その金の一部で外見を大きく変貌させた小森は、一億円の横取りを企み、自分を殺そうとした真犯人たちの正体を暴くこと、そして復讐を誓う。

 題名だけ聞くと西村京太郎のトラベル・ミステリみたいだが、実際にはむしろ同じ作者(西村京太郎)の『ダービーを狙え』みたいな、エロ通俗要素の濃厚な、若者たちを主人公にしたクライムストーリー。
 途中から突発的な殺人が生じ、形ばかりフーダニットの要素も導入されているが、全体的に下世話な展開。
 <自分を殺そうとした謎の女の尻に黒子があったので>というのを作劇上のエクスキューズにしながら、小森が疑惑の目を向けた仲間の女ふたり、そして友人の男どもの本妻や情人たちを次々とあんな手段やこんな手段でひん剥いていくいやらしい描写にも、こちらの求めるトキメキがあまりない。もしかしたら本作は矢上裕の『エルフを狩るモノたち』の元ネタか?(たぶん違う。)

 途中までは、久々に本当にしょーもない作品を読んだかという気にもなったが(いや読了後の今でも少なからずそう思っているが)、最後まで付き合うと、とにもかくにも一本の長編にまとめた作者の力業はまあ認める。しかし捜査陣の名前ばっか数名出てくる警察は、本当に無能であった。

 たまたま書庫にあったから気が向いて読んでみたけど、実のところ作者・斎藤栄はこれまで特に守備範囲でもなかった作家だし、この本も買った覚えがない。なんでこの本(トクマノベルズ版)、家にあったんだろ? 家人の蔵書とも思えないが。ある日窓から飛び込んできたのか。

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