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ミステリの祭典

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虹のような黒

作家 連城三紀彦
出版日2019年08月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2019/09/25 23:09登録)
(ネタバレなし)
 聖英大学の大学院生で美人と評判の麻木紀子は、妻帯者の大学教授で自分の恩師でもある41歳の矢萩浩三と肉体関係を結んだ。紀子は、1年以上前から付き合っていた恋人で大学の先輩でもある沢井彰一に、別れ話を切り出す。彰一はその申し出を了解するが、最近、妙なものが送られて来ていると、あるものを見せた。それは全裸の男女が絡み合う手描きのイラストで、紀子は直感的にそれが自分と矢萩の情交の図だと察した。さらに聖英大学の周辺には、類似のイラストが乱れとび、そんな折、大学内の暗闇の密室の中で、ある凌辱劇が発生する……。

 2013年に他界した連城三紀彦の、書籍化されずに残っていた最後の長編。初出は2002年~2003年の「週刊大衆」で、彰一、紀子、矢萩、それに矢萩の妻の綾子の四角関係を主軸に、さらに大学ゼミ内の学生たちをも巻き込んだ濃厚な劣情のドラマが展開する。

 面目ない事に評者は連城作品とのこれまでの付き合いは1980年代までのものとこの近年に発掘されたものが主体で、90~00年代の作品群はまったく読んでいなかったので、これが作者の全域の作品群の中でどのような位置を占めるかはよく分からない。性愛描写も掲載誌の要請に合わせたのであろう感じで実に露骨だが、それでもどこかに妙な品格が漂っているのがこの作者らしい。
 
 よく知らないが、聞くところによる渡辺淳一の世界? ってのは多分こんなもんなのかなー、という感じで読み進んでいき、生前に本にならなかった、ミステリ味も希薄な作品なのかな、という予断もあったが、はたして後々には、いかにも連城らしい(前述の通り、若い頃しか知らないが)「××の××」が終盤にちゃんと用意されている。それを機会に徐々に実相を変えていく物語世界の危うさは、スリリングで心地よい。

 ただしそんな一方、少なくとも本作に限っていえば、結構ノープランで書いちゃったんじゃないか? と思える感触もあった。特に物語序盤には印象が薄いどころか、影も形もなかった大学周辺の若者キャラたちが、あとあとになって、いかにも最初から物語のメインの場にいたような感じで比重を増していたのになんか違和感を覚える。
 本気で作者が生前に了解のもとに刊行されていたら、もうちょっと改稿・推敲されて、その辺のバランスはよくなっていたかもしれない。まあ無いものねだりではある。
 今はとにかく、幻の作品を発掘して書籍化してくれた関係者に感謝。

 ちなみに本作は、雑誌連載中に作者自身が小説本文に沿った挿し絵イラストを描き添え、一回二葉、全36回の連載で合計72枚の画稿を執筆。今回の単行本には、そのイラスト全72枚が完全に収録されている。画稿の主題の大半は物語の流れに応じたエロチックなもので、ヘタウマというかウマヘタというか、それなりに上手いもののどっかアマチュアっぽい画風が奇妙ないやらしさを感じさせる。本書はこのイラストも込みで賞味される作品ということで。

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