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ミステリの祭典

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トゥインクル・トゥインクル・リトル・スパイ
「無名の英国人エージェント」シリーズ

作家 レン・デイトン
出版日1984年05月
平均点4.00点
書評数1人

No.1 4点
(2021/06/23 16:16登録)
 〈スパイ衛星があともう百万個ほどもふえりゃあ、おれたちはふたりとも失業だな〉――アルジェリア領サハラ砂漠の奥に一千マイルほどもはいりこんだ地点で、"わたし" はCIAのマン少佐と共に、ソビエトの複合基地からの亡命者を待ち受けていた。
 彼の名はアンドレー・ベークフ教授。メーザー(電磁波変換)技術の世界的権威だが、地球外生命体との交信に熱中するあまり国内でもお荷物的存在となってしまい、半ば追われるようにアフリカのマリに左遷されたのを契機に、西側への鞍替えを決意したらしい。
 現地人の犠牲を出しながらも教授の保護に成功する二人。だが彼らの真の目的は、教授の所属する科学サークル〈一九二四年協会〉を通し続発する、電子軍事技術漏洩の謎を探ることにあった。事態は日々深刻化し、その被害はアメリカのみならず三千マイル彼方のイギリスにまで及んでいたのだ。
 少佐と "わたし" はベークフから漏洩源を訊き出そうと試みるが、彼に引き続き亡命したベークフ夫人も含め一向に尋問の埒はあかない。やがてKGBと思しき男たちの夫妻への襲撃も始まり、事態はますます緊張の度を深めてゆくが・・・・・・
 『昨日のスパイ』に続くシリーズ第八作で、1976年の発表。今回は徹頭徹尾イギリス国外が舞台で、古狸のドーリッシュや『スパイ・ストーリー』『昨日のスパイ』のシュレーゲル大佐など、お馴染みの愉快なメンツはまったく登場しない。サハラ砂漠にはじまって、ニューヨーク、ヴァージニア州の田園地帯、フランス山間部の寒村、パリ、アイルランドのドロエダ、フロリダのマイアミ、ボルティモアから再びサハラと、文字通り世界中をひっぱりまわされる。
 『スパイ~』に比べ全体の構図は分かり易くなっているが、その分重厚さには欠け血腥くも通俗寄り。センテンス毎に襲い来る機関銃の様なイヤミは健在なものの、見事なまでに鉄面皮な主人公がバックギャモンの名手、レッド・バンクロフトなる赤毛の美女にメロメロになるなど(当社比)、痛烈オチとはいえ "わたし" の冷血ぶりを愛する読者にとってはいささか物足りない。路線転換したのはいいが、これまでの積み重ねに代わる魅力を提示できてない感じ。
 一応大ネタとして漏洩源の答えは用意されているのだが、そこまでの持っていき方も過去作に比べ強引かつ荒い。果たしてこのレベルまで食い込んだ人物が、こんなテロリスト紛いの立ち回りをするだろうか? 他にもあからさまな欠陥の方が目立つ作品で、イマイチ感興には浸れず採点は4~4.5点。

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