頭が悪い密室 |
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作家 | 水原章 |
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出版日 | 不明 |
平均点 | 5.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 5点 | 人並由真 | |
(2019/09/24 04:19登録) (ネタバレなし) 先日のヤフオクで、本書を複数の入札者が競りあっているのを目撃。 全然知らない作家で、さらにちょっとインパクトのある題名、それに帯の「密室殺人・人間消失・透視術・謎・謎・謎」という惹句に気を惹かれて、図書館便りで取り寄せて読んでみる。 なお現状でAmazonに登録データはないが、本は2006年1月30日に早稲田出版という版元からハードカバーで刊行されている。本文は全294頁(奥付含まず)。 内容は短編集で、収録作品は4つのパートに分類。 全部の作品の題名と、その初出データは以下の通り。 第一部 白い檻(「雪」1963年6月号) 世界をおれのポケットに(「雪」1963年12号) 人間消失(「雪」1970年9月号) 血の掟(「雪」1970年11月号) 死者からのラブレター 蛸人 第二部 けものが眠るとき(「新大阪新聞」1960年7月15日) あたしは夜が怖い(「新大阪新聞」1961年6月23日) 死を賭けろ(「新大阪新聞」1959年8月14日) 頭が悪い密室(「新大阪新聞」1961年1月20日) 仮面をかぶって殺せ(「新大阪新聞」1960年10月21日) 謎を解いてちょうだい(「新大阪新聞」1961年7月14日) 断崖(「新大阪新聞」1961年5月26日) キッスで火を点けろ(「新大阪新聞」1961年9月8日) 第三部 色彩学教程(「デイリースポーツ新聞」1955年1月) 解剖学教程(「デイリースポーツ新聞」1955年1月) 生物学教程(「デイリースポーツ新聞」1955年1月) 確率論教程(「デイリースポーツ新聞」1955年1月) 物理学教程(「デイリースポーツ新聞」1955年1月) 第四部 日の果て(「別冊宝石」33号/1953年12月15日号) 殺意(『密室』28号/1960年8月15日号) 以上、本書の巻末の記載から。「雪」というのはどういう雑誌(同人誌?)か全く知らない。デイリースポーツ新聞系の初出データが大雑把だったり、『世界をおれのポケットに』のデータを本当はたぶん12月号と書くべきところが変になっているのは、単純に誤植か、あるいは作者の手元に残っていたメモとかが不正確だったからか。 なお『死者からのラブレター』『蛸人』の2つはデータの記載がない。本書で初めて日の目を見た、未発表作品だったのかも知れない。 いずれにしろこのデータを見れば分かる通り、2006年の新刊のくせに、実はかなり古い作品ばかり。(実を言うと先にwebでその旨のうわさを目にしており、ソレで興味を惹かれた面もある。) なお作者・水原章に関しては、奥付の手前の頁に「大阪生/関西学院大学卒/日本推理作家協会会員」とごく簡素な紹介があるだけ。いまだもってそれ以上の情報はないが、同人誌「密室」に、本書の一番最後に収録の作品『殺意』を載せている事から、たぶん老舗ミステリーサークル「SRの会」の一員だったのだろう。あー、つまり評者の先輩だね(笑)。 それで肝心の作品の内容は実に幅広い作風で、第一部には比較的フツーの短編ミステリっぽいものが並んでいるが、その中身は軽パズラーもあれば、スレッサー風のツイストを利かせたショートストーリーまで様々。出来はいろんな意味で総じてまあまあ。最後の『蛸人』は一種のホラーSFである。 曲者なのが第二部の「新大阪新聞」系の作品で、例えるなら日本版「マンハント」でのゲスト日本作家による、洒落たパロディ・ハードボイルドのような傾向のものが主体。このセクションの作品群が、私見では一番、本書の個性を打ち出している。中では特に「仮面をかぶって殺せ」がインパクトあった。21世紀の今では、絶対に商業誌に載らない種類の作品。 第三部はミステリクイズ風のショートショートで、各編の解答は別立てになっている。 最後の第四部はちょっと腹応えのある、長めの短編というか短めの中編が二本。『日の果て』は密室、毒殺、アリバイ崩しとパズラー要素の強い作品だが、いかにも「宝石」の長い歴史の中に埋もれた作品っぽく、狙い所の定まらない印象。『殺意』は男女の三角関係を巡って二転三転するトリッキィな内容だが、あまり小説そのものがうまくないせいか、ちょっと退屈。 しかしどういう経緯で、こんなマイナー作家の旧作群が、40年以上も経って本になったのか不思議(1960年代辺りに一度本になったものの再刊行……ということはナイよね?)。 版元の早稲田出版の名もあまり聞かないので、老境に入った元作家の卵&ミステリファンが、昔の手すさびの作品を自費出版したのかとも思った。が、この出版社は特に自費出版物の版元という訳でもなく、webで検索すると経済・経営関係のセミナー書? の類などを出しているようである(他のジャンルもいくつか。ただし文芸書は少ない)。 同版元の経営者か編集者とかが、個人的に作者と旧縁でもあったかも。 昭和のマイナーミステリのマニアは、安く出会えたら話のタネに買っておいてもいいかも。ただしあまり高い値段で購入する必要はまったくないでしょう。 |