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ミステリの祭典

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よそ者たちの荒野

作家 ビル・プロンジーニ
出版日1998年11月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2019/09/17 17:55登録)
(ネタバレなし)
カリフォルニア州北部にある人口がわずか一万で、さらに過疎化が進む田舎町のポモ。そこはネイティヴ・インディアンほか人種間の偏見がまだ残る土地でもあった。そんな町にある日、旧式のポルシェに乗った醜男の巨漢ジョン・C・フェイスが現れる。威圧的な雰囲気のフェイスに町の住民は警戒の目を向けるが、一部の人間は彼の知性的で細やかな言動に気がついた。夫を亡くして町の多くの男性と関係を結ぶ心寂しい美人の未亡人ストーム・キャリーは、そんなフェイスを家に誘うが。
 
 1997年のアメリカ作品。名無しのオプシリーズの作者プロンジーニが著したやや長めのノンシリーズ作品で、質の方もそれに見合った腹応えがある。
 物語のキーパーソンで実質的な主役はくだんのジョン・フェイスなのだが、小説の手法としてただの一度も彼自身の内面描写は無く、大きく分けて本文は一日単位で、5つのパートに分割。その本文の全部を、町の住人数十人による、交代する一人称の視点で叙述。語り手の内面を読者に覗かせると同時に、ジョン・フェイスの人物像もその叙述の積み重ねの中から浮かび上がっていく。
 実験小説的で面白い構成(既存のものになにか似たようなものはあるかもしれないが)だが、実はここに(中略)。かなりの大技が用意されていて、語り口のトリッキィさに埋め込まれてそれが気がつかないようになっている。ジョー・ゴアズのあの作品みたいだ(これくらいの言い方ならネタバレ警戒としてよいだろうと判断します)。

 そもそも流れ者を迎えて化学変化を起こす地方の町、というのは西部劇ジャンルなどにも連なる王道パターンだろうが、実際に本作もアメリカがいかに近代化して表面上は希薄化? しても根底から解決されることのない人種問題、貧富による格差、州や国単位の開発が進んだなかで見捨てられる地域の町……などの「よく見る」社会派テーマが山盛りで、それがストーリーの流れやキャラクター描写に溶け込み、小説のうま味になっている。プロンジーニって、やればまともなもの普通に書けるんだね。見直した。
 
 ちなみに本書は1998年のMWA最優秀長編賞候補。受賞はジェイムズ・リー・バーク の『シマロン・ローズ』なる作品に持ってかれたそうだけど、個人的には充分に力作と評価したい。
 まあプロンジーニにMWA最優秀長編賞の本賞なんて、どうにも似合わない感じもしますし。

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