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ミステリの祭典

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血の色の花々の伝説

作家 日下圭介
出版日1981年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2019/09/14 13:40登録)
(ネタバレなし)
 父親の会社が倒産して学費が払えず、退学の危機に瀕する大学生・泰道邦彦。さらに恋人・水木梨恵子に捨てられた彼は12歳年上のソープ嬢・藪原しづえと肉体関係を持ち、彼女の貯金に助けられた。だが梨恵子が復縁を願い出た事から邦彦はしづえに別れ話を求めるが、諍いの果てに彼女に怪我を負わせてしまう。現場から逃走した邦彦だが、その後しづえのアパートがガス爆発。しづえを含めて7人の死者が出るが、そのしづえは邦彦の退去後に何者かに刺殺されていた。一方でガス爆発が自分の過失に起因すると自覚した邦彦は、その日、現場で出会った少女・折原陽子の事を気にかける。やがて、しづえの殺人事件は未解決、邦彦の罪科も明かされる事もないまま歳月が過ぎていくが、およそ10年の時を経た現在、再び、関係者を囲む事態は劇的に動き出す。

 日下圭介の長編第五作目。
 日下作品の初期諸作は、アイリッシュ(ウールリッチ)のノワール系を醤油味にした感じでその辺がなんとなく好きだった。久々に読んでみたくなったので確かこれは未読? と思って講談社文庫版を手に取ったが、読み進めている内にさる印象的な叙述(というかダイアローグ)からすでに講談社ノベルズ版で大昔に既読と気づく(汗・笑)。
 それでもプロットも犯人もトリックもほとんど忘れていたので、初読のように最後まで付き合えた(さらに途中、別の作家の作品の描写だと思っていたあるシーンが、実はこの長編のものだったと気づく事もあった)。

 本文は全部で12の章に別れ、序盤の二章が起点の過去編。グラデーション的な第三章を経て本筋といえる約10年後の現代編に移行する。主要キャラは過去の罪科の発覚をおそれる邦彦、その妻となった梨恵子、邦彦を事件の日に目撃し、今は成長した陽子、さらにガス爆発に巻き込まれて家族を奪われた中年実業家・木暮清次、その清次に当時救われたのちに大学生となる少年・南原茂樹……この5人がそれぞれ主人公的なポジションに就く。
 今回手にした文庫版でも460ページ以上というボリュームで、名前のある登場人物だけで40人前後に至るかなり長めの一編。
 ミステリ的には中盤、主要人物の何人かが「彼が」「彼女が」犯人では? と疑惑を傾けあう(あるいは罪をなすりつけようとする?)辺りになかなかの読みごたえがあり、一方で各主要キャラの内面描写もアンフェアにならない程度に踏み込んでいるので、その辺もテンションは高い。
 序盤の殺人の真相の明かされ方、そしてその真実そのものに曲がなかったり、最後の決め手となるアリバイトリックがやや強引な感じがするのはナンだが、全体としてはそれなりに楽しめる力作ではあろう。
(しかし、こんなに登場人物が多くって、場面転換も多い、入り組んだ話、ウン十年前に読んだ記憶から忘却していても仕方がないよな~汗~。)

 ちなみにタイトルの「血の色の花々」の表意は、細分化すれば全国に数百種類もあるというサクラソウの事で、物語の序盤から色々な形で劇中に登場。10年余のドラマを繋ぐキー的なビジュアルイメージになっている。

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