home

ミステリの祭典

login
時喰監獄

作家 沢村浩輔
出版日2019年07月
平均点4.00点
書評数1人

No.1 4点 人並由真
(2019/09/06 22:00登録)
(ネタバレなし)
 明治維新から20年余の歳月を経た時代。北海道の原生林の中にある、極寒の大気と野棲の狼の群れに囲まれた陸の孤島、それが「黒氷室」こと第六十二番監獄だった。重罪人ばかりを収容した同施設からその冬、一人の囚人・赤柿雷太が脱獄する。だが彼は追撃の銃弾を受けて重傷を負いながら、大事もなく蘇生? した。一方、逃走中の赤柿を救ったのは謎の青年。逃亡補助を問われた彼は黒氷室に拘留されるが、その青年の記憶の一切は失われていた。怪事が続く黒氷室は、さらにまた新たな囚人たちを迎えようとしていた。

 評者は沢村作品はまだ二冊目。先行する2015年の長編『北半球の南十字星(文庫版で『海賊島の殺人』に改題)』しか読んでないが、これが海賊海洋冒険小説+クローズドサークルの不可能犯罪ものというハイブリッドな組み合わせで、エラく面白かった。ネタのコンビネーションこそ違うが、大好きなニーヴン&パーネルのハイブリッドミステリ(ミステリ+SF+体感ゲームパーク)の『ドリーム・パーク』に匹敵する快作がついに国内に登場した! と快哉を上げたほどだ(笑)。実を言うと北半球の南十字星』は2015年度の国内新刊ミステリ(ちゃんと100冊以上読んだぞ)の五本の指に入るくらいスキである。

 まあ一般的に評価されている沢村作品は処女短編集の方みたいだし、そっちはいつか読めばいいや、それよりまた変化球設定の新作長編ミステリが出ないかな、と思っていたら今年になってコレが刊行。それでいそいそと手に取り、明治時代の北海道の監獄(山田風太郎の『地の果ての獄』か!?)を舞台にしたタイムトラベルのSF要素をはらんだ謎解きミステリ? すごくオモシロそうじゃん、と期待した。
 
 そしたら、まあ……う~ん。ちょっと、いやかなり今回は当てが外れたか(汗・涙)。
 謎解きの要素は皆無ではないんだけど、どちらかというと今回は予想以上にミステリというよりSF寄りだし。まあそれはそれでいいんだけど、全体的に話の狙いが散漫。あえてミステリの文法に整理するならホワットダニット、フーダニット、ホワイダニットに類する読み手の興味を刺激しそうなものが散りばめてはあるんだけど、それがどれも焦点を結んだ求心力にならない。キャラも多様だけど、この物語にここまでややこしい配置や設定が必要かと疑問を覚える一方、主要人物が一体どのような罪状のもとにこの監獄に送られてきたのかという、かなり重要なはずの文芸設定が触れられていない。
 概してバランスが悪い作品で、誠にもって勝手な想像で恐縮ながら、これは作者が物語を紡いでいくうちに、編集者やら周囲の人やらがこの設定とギミックならあーだこーだと好き勝手な意見を言い、その結果、まとまりを欠いたものが出来てしまった感じ。
(いや、実際のメイキング事情はもちろん全く知りませんが、いかにもそんな感じに思えるような一作という意味合いで、受け取ってもらえれば幸いです。)
 
 Twitterを覗くとけっこう評判もいいみたいなので、こっちの読み方がよくないか、はたまた単純に相性が悪いとかもあるかもしれませんが。
 また次回の面白そうな趣向の作品に期待します。

1レコード表示中です 書評