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ミステリの祭典

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コロサス

作家 D・F・ジョーンズ
出版日不明
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2019/09/06 14:32登録)
(ネタバレなし)
 北アメリカ合衆国がロッキー山脈の内部をくりぬいて建造したスーパー・コンピューターの「コロサス」。12年の歳月と3000人以上の技術者を動員して生み出されたそれは、西側社会の平和と世界の均衡を守るための、ヒューマンエラーを完全に排した、独立自律思考型の恒久的な防衛システムだった。だが起動したコロサスは、ソ連側にも同様の防衛システム「ガーディアン」があることを知覚。コロサス計画のリーダーである科学者チャールズ・フォービン博士を介して大統領に半ば強制的な要請を出し、もうひとつの巨人頭脳とのコンタクトを図る。やがてガーディアンと一体化し、人間の現代文明の百年以上先のインテリジェンスにまで瞬く間にたどり着いたたコロサスは、アメリカとソ連の国防システム=広域を狙える核ミサイルを利用して全人類を支配し始める。

 英国の1966年作品。Amazonには現時点で翻訳書の登録データがないが、ハヤカワのSFシリーズ(ポケミス仕様の銀背)から1969年5月31日に刊行。本文は解説込みで約270頁。定価は350円。

 アメリカの職人監督ジョセフ・サージェントによる映画作品『地球爆破作戦』(Colossus: The Forbin Project・1970年)の原作でもある。くだんの映画は公開から少し後にミステリマガジン誌上で石上三登志が「本当に優れた作品」(なのに大して世間から注目されないうちに、場末の二番館に追いやられた映画!)として激賞。
 さらに何年かのちにHMMのバックナンバーでその記事を読んだ自分(評者)は東京12チャンネル(今のテレビ東京)のお昼の洋画劇場か何かで初めて視聴してショックを受けた。同じように、何回か繰り返されたらしいテレビ放映で本作に惹かれた世代人のSFファンは少なくないようで、今ではカルト的な名作映画として、ある程度の評価が確立しているようである。

 そういえばあの映画、ちゃんと原作あるんだよな……と先日なんとなく思い、このたび、まったくの思いつきで本を取り寄せて読んでみた。
 半世紀も前の新古典だし、人類が科学文明のいびつな先鋭化を進めた果てに自分たち自身を支配する神を作ってしまうという主題そのものはもう珍しくもないが、当時の現実の少し先の地続きの世界がじわじわと<恒久の平和>という形の絶望に向かって進んでいく緊張感には、時代を超えた普遍的にして妖しい蠱惑感がある。
 大筋は映画と同じだが、一方で映画が原作の要所を抑えながら、ビジュアルの効果を考えた面白い潤色をあれこれしていたのも実感した。かたや小説ならではの細部の展開や叙述も散見し、これは双方をともに楽しむ事ができる好ましいサンプル。
 なお小説の終盤には映画にはなかった、コロサスの提示するさらに奥へと向かっていく(中略)のビジョンがあり、原作を読むならそこがキモのひとつ。ロボットテーマSFのひとつの変奏ともいえる一編だろうが、新古典作品としていま読んでも面白い。

 ところでコロサス+ガーディアンのこの設定は、ゲーム「スーパーロボット大戦」シリーズのオリジナルの敵に設定して、並行世界からやってきたおなじみのヒーローロボットたちに粉砕させたら、スカッとするだろうなあ。

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