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ミステリの祭典

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室町お伽草紙

作家 山田風太郎
出版日1991年07月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 クリスティ再読
(2019/09/02 09:24登録)
山風でも晩年の明朗戦国絵巻、という雰囲気の作品。副題が「青春!信長・謙信・信玄卍ともえ」になっているくらいのもので、主要なシテは誰でも知ってる信長・謙信・信玄。その若き日にお忍びで上洛していて、足利の姫と最新鋭の鉄砲300丁を巡ってオールスター卍ともえ、な戦国秘史なんだが...本作の敵役というか、この卍ともえのゲームマスターに無人斎道有を持ってくるのが本作のポイントでもあり、一番の良からず、の点でもあるように思う。
無人斎道有、ご存知かな?前名の方がたぶん有名だ。武田信虎、信玄の父で武田家隆盛の基を築いたのだが、信玄のクーデーターにひっかかって国を追われ...という数奇な運命をたどった(元)武将である。本作では描かれないが、後に将軍義昭のお伽衆として仕え、義昭を奉じて上洛した信長と角逐を繰り返すことになる....のだが、こっちの話の方が実は本作よりもずっと面白く、しかも本作がその「ネタ本」に強く負い過ぎているのが、評者の最大の減点理由である。そのネタ本は花田清輝の「鳥獣戯話」である。
本作の悪のヒロイン玉藻も、「鳥獣戯話」の道有がお伽草紙の「たまものまえ」を批判して「狐ほど、人間に対して誠実で、親切で、率直で...」と評価した話から来ているし、前半の狂言回し関白法師九条稙通の飯綱使いの話もここにあって、およそ本作のベースになるネタで面白い部分が全部「鳥獣戯話」にある。でしかも「鳥獣戯話」の面白さに及ばないと評者は思うんだ。ラスボス的な南蛮商人カルモナも、同じ名前だが別キャラとして「鳥獣戯話」に登場するしね。というわけで、別に剽窃とかいう気はまったくないが、「鳥獣戯話」の強烈な面白さにはずいぶんと霞む。まあ山風らしいパロディックでゲーム的な小説として読めばいい。戦国名シーンをいろいろ予行演習してくれるしね。けど随分味付けがライトだなあ。
というわけで、「鳥獣戯話」反則かもしれないけど、やります。

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