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ミステリの祭典

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悪党パーカー/逃亡の顔
悪党パーカー

作家 リチャード・スターク
出版日1968年01月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2019/09/02 01:36登録)
(ネタバレなし)
 関わり合った広域犯罪組織との軋轢を警戒したプロの犯罪者パーカーは、アウトロー相手の外科手術を行う元過激派コミュニストの医師ドクター・アドラーのサナトリウムに潜伏。四週間の時間と一万八千ドルの手術費を使って、自分の顔を以前とは別人に変えた。手元にはわずか九千ドルの金しか残らなかったパーカーは、自分の変貌に関する情報は決して口外しないというアドラーを信用し、次の強奪計画を求めてなじみの犯罪者ハンディ・マッケイに連絡を取る。現金輸送車を襲う計画に調整を加えながら実行にかかるパーカーと仲間たちだが、不測の事態がそれこそ思いも掛けぬ形で到来した。

 1963年のアメリカ作品。『悪党パーカー/人狩り』に続くパーカーシリーズの第二弾で、日本でも二番目に翻訳紹介された長編。
 言うまでも無く本作の一番のポイントは、前作『人狩り』であれやこれやを為したパ-カーが過去のしがらみを断つ(あるいは薄める)ために顔を整形する趣向。考えてみればこの後20冊以上、連綿と続くこのシリーズ内の作中のパーカーの顔は、この作品で誕生した訳である。(二作目が重要な起点になるなんて、大戸島出身の初代じゃなく岩戸島出身の二代目ゴジラの方が長年のシリーズ主人公となる、昭和ゴジラシリーズみたいだ。)

 しかしその「主人公が整形して顔を変えるというのが主題の一編? なんか地味そうだなー」……と思って、ずっと長らく家の中に本は放ってあった。
 だがさすがに、長年の内には考えも変る。そういう地味目? な趣向の方がもしかしたら面白いのではないか、と思って、今回改めて、読み始めてみた。
(いや、そもそも大分以前から、パーカーシリーズの面白さは、その回のネタが派手か地味か、だけで決まるもんではないとはわかってはいたけれど。)

 とはいえ内容は、ストーリーの幹筋の部分となる現金強奪の方が意外なほどに曲がない。いや(中略)となる流れの布石などはちゃんと張ってあり、それに沿って物語は進む。ただし作者としてはそんな筋運びをドラマチックに起伏感いっぱいに語るのでは無く、むしろ素っ気なく綴ることで乾いたハードボイルド感を出したいようなのだが、その効果が、作品が書かれてから半世紀以上経った今となっては、なんかありきたりにどっかで読んだように見えるのだ(汗)。この辺は作品の賞味期限が過ぎてしまっているという感触か。だから中盤まではけっこう退屈だった、この作品(涙)。

 そうなるとむしろフツーに、ストーリーの組立てそのもので勝負をしてくる後半の方が面白くなってくる。あらすじでもちょっと触れた、パーカーにとっても予想外のとある事態がどう転がっていくか、の興味の方が、読み手を刺激する。
 パーカーシリーズでおなじみの、本文を四つの章に区切る四部構成の作りだが、このシリーズ第二作で早くも、その構成そのものをちょっと妙な技法で活用してくる(もちろんここではあまり詳しくは書けないが、ちょっとトリッキィな、ギミックも見せている)。そんなテクニック面が面白い。
 クライマックスの決着のつけ方も、『人狩り』を踏まえて、本作のここでまたさらにまたパーカーという(当時としてはかなり新鮮な)犯罪者キャラクターの素描を固めた感もある。
(ただその上で、この最後のパーカーの駆け引きぶりには、個人的にどっか(中略)なんだけれど……。)

 まとめるなら、これまでパーカーシリーズに付き合ってきた、あるいは今後も読んでいくつもりなら、読んでおいた方がいい一冊なのは確か。
 それは初期の文芸設定や世界観に触れるという意味のみならず、スターク=ウェストレイクという作家の、この時点での独創的なノワールヒーローをシリーズキャラクターとして固めようとする、過渡期の試行錯誤みたいなものが覗えて、その辺がかなり興味深いので。
 ただ、それがエンターテインメントとして面白いかどうかというと、個人的には微妙。もしかしたら、最後のパーカーの決裁に至るまで、波長の合う人には合うかもしれない。ダメな人には、自分(評者)以上にまったく合わないんじゃないか? という気もするんだけど。

※余談ながら、巻末の小鷹信光の、この時点で未訳だったパーカーシリーズの初期8作までを概観・展望した一文はすごい読み応えがある。小鷹のどっかの著書(単著)に再録されていたっけかな? 記憶にないや(汗)。

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