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ミステリの祭典

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泥汽車

作家 日影丈吉
出版日1989年12月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点
(2019/12/18 16:08登録)
 日影丈吉最後から二番目の短編集。白水社「物語の王国」シリーズの一つで、他のミステリ寄り作品には赤江瀑「ガラ」、かんべむさし「トラウム映画公社」、泡坂妻夫「黒き舞楽」などがあります。長め短めの各短篇をとりまぜ全6編収録。
 失われゆくものの懐かしさ、愛しさを主題に据えた、幼き日の回想とも夢ともつかぬ作品集で、中でも表題作は出色。幼少期東京のはじっこの町に住んでいた作者。ある日突然原っぱに線路が敷かれ、海の底から掘り出した泥を山と積んだ機関車が、遠くの海から毎日走ってくる。その泥で元は大名屋敷の跡だった池や草原が、どんどん埋め立てられていく。そこをすみかにしていた古い森のつきものであるモノノケやスダマの類も、何もできぬまま美しい月の夜、泣きながら最後の踊りをおどっている。全てが失われた今、森に棲むものたちは果たしてどうなってしまったのか・・・
 これと同じく子供の頃の原っぱでの遊びを描いた短めの「石の山」は出来が良かったのですが、二番目の「じゃけっと物語」は前後のばらけた、ややとりとめの無い名手日影らしからぬ作品。中盤の各篇も弱く、これは前回批評した「鳩」の方が上じゃないかなと思ってたら、五番目の短篇「かぜひき」の第二話「珍客」と、掉尾を飾る「媽祖の贈り物」の二作で持ち直しました。前者は病臥する作者の元に、ある日ふらりと老子その人が見舞いにやってくる話、後者は媽祖(一種の土地神)を信仰する母親マーミャオの祈りを聞き届けた玄天上帝が、兵隊に取られた彼女の四人の子供たちの命を守ろうとする話。特に「媽祖~」は童話めいた語り口ながら余韻嫋々としていて、本書の締めくくりに相応しいものでした。1990年度第18回泉鏡花賞受賞作。

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