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ミステリの祭典

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蜘蛛の糸・杜子春・トロッコ他十七篇

作家 芥川龍之介
出版日1990年08月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 猫サーカス
(2019/08/22 18:50登録)
蜘蛛を助けたことがある男を地獄から救い出そうと、お釈迦さまが蜘蛛の糸を垂らす「蜘蛛の糸」。仙人になるには何があっても口をきいてはならないのに、苦しむ母を見捨てられなくなる「杜子春」。トロッコを夢中でおして遠くまで来てしまい、不安でたまらなくなる少年を描いた「トロッコ」。芥川龍之介の珠玉の短編20作が収められている。「桃太郎」は有名な昔話を下敷きに、人間社会の心理を鋭く突く。昔話の方は桃から生まれた桃太郎が犬と猿、キジを連れて「鬼が島」へ鬼退治に行く話で、桃太郎はヒーローだ。だが、鬼からはどう見えるか。桃太郎が鬼退治を思い立ったのは「山だの川だの畑だのへ仕事に出るのが嫌だった」から。鬼が島は「美しい天然の楽土」。鬼たちは平和を愛し安穏に暮らしていた。桃太郎は「鬼という鬼は見つけ次第、一匹残らず殺してしまえ!」と犬、猿、キジに号令し、最後に、鬼の首長の子供を「人質」に取って帰って行った。その子は一人前になると、見張りのキジを殺して鬼が島へ逃げた。島に生き残った鬼は時々、海を渡って来ては桃太郎の家に火をつけたり、寝首をかこうとしたり。桃太郎はため息をつく。「鬼というものの執念の深いのには困ったものだ」視点が変われば、風景は一変する。土地を追われた先住民や植民地支配された国の人々にとって、ここに描かれた桃太郎は自分たちを支配する者の姿そのものだろう。侵略された側の憎しみや恨みは簡単には消えない。1924年に書かれた芥川の「桃太郎」は、今の国際社会の闇と病理をも言い当てている。

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