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ミステリの祭典

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消えた郵便配達人

作家 草野唯雄
出版日1985年04月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2019/08/18 12:12登録)
(ネタバレなし)
 その年の1月16日の白昼。江東区深川にある小藤薬局に拳銃を持った暴漢が押し入り、金を要求する。だがその薬局内には、市街を巡回中で薬局の主人の小藤洋子と雑談をしていた私服刑事・原尾がいた。原尾は自分の身分を叫ぶが、賊はその場で相手を射殺して何も取らずに逃走する。同僚を殺された深川署の刑事たちは犯人の検挙に躍起になるが、なぜか洋子と、もう一人の目撃者として名乗り出た郵便配達人の青年・大河内誠による、逃亡した犯人の背格好の情報は相応の差異を見せた。やがてスナックの女主人・畑広子がもたらした情報から、町のダニの青年・伊吹直一が逮捕されるが、面通しの際にも大河内は、彼は犯人とは別人だとなおも頑なな態度をとった。深川署の捜査陣は同僚の殺害事件を一刻も早く片づけたい面子もあって、直一の立件を急ぐ。一方で大河内は、まるで邪魔な証人が近隣から追い払われるかのように、地方に転属になる。毎朝新聞社会部の記者・幕張健次は、直一の無実を信じる彼の老母と本妻の礼子の訴えに耳を貸し、事件を自らの手で調べ始めるが。

 現状でAmazonに登録はないが、1985年4月10日の双葉社のフタバノベルズから刊行。この新書版がたぶん元版だと思う。書下ろしとの標記はないが、先に雑誌連載されていたかは不明。
 
 まだ夜が浅いので、もう一本何か読もうと思って手に取った積ん読本の一冊だが、くだんのフタバノベルズ版の惹句が「激情社会派ミステリー」。この大仰なキャッチにさすが草野作品とのっけから笑いが零れる。
 さらに読み進む内に、サブキャラクターの名前が途中で変ったり(強盗容疑者・伊吹直一の実母の名前が最初に登場する28ページでは「せつ」なのに、78ページ以降は急に「さと」になる・笑)、最初のページから脱字も目立つ。これは色んな意味で『死霊鉱山』とは別のベクトルのダメミステリが楽しめそうだ、といささか品のない構えでいたら、物語の後半、かなり良い意味でこちらのくだらない期待を裏切ってくる。これから読む人に素で驚いて欲しいので、あんまり細かくは言わない。クライマックスの裁判シーンも妙な熱量が感じられて読み応えがある。
 実のところ裏表紙のあらすじも本文を半ばまで読み進めるまでは、雑な編集の雑な記述だなと思っていたが、どうやら……(以下略。※ネタバレ警戒の人はフタバノベルズ版の表4のあらすじは読まない方がいいかも)。

 玉石混淆作家? 草野唯雄のたぶんこれは思わぬ拾いもののひとつ。草野作品にハマる人というのは、今回はアタリかハズレかのスリル感も大きいんじゃないかとも勝手に思う(笑)。

 なお逮捕された直一が無実を叫ぶくだりで、彼の手首から検出された硝煙反応について、ちょっと独特な弁明を主張。
 ちょうどいま、本サイトの掲示板の場で、別のレビュー書き手の弾十六さんから硝煙反応について(特にその鑑識技術の確立の経緯に関して)蘊蓄に富んだ教示を授かっている最中なので、その意味でも興味深く読めた。
 弾十六さん、機会とご興味などありましたら、本作内の描写についてもこれってリアルにありうることなのかどうか、考証なさってください。

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