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ミステリの祭典

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カルパチアの城

作家 ジュール・ヴェルヌ
出版日1968年01月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 Tetchy
(2019/08/12 23:21登録)
冒険SF作家のヴェルヌの異色作と謳われている本書。内容は吸血鬼伝説で有名なルーマニアのトランシルヴァニアを舞台にした悲恋の物語。

しかしたった230ページ強の作品は実にストレートな内容ながらそこにヴェルヌらしさを織り込ませているのはさすが。
即ち村人たちの代表が城を探索しに行こうと意気揚々とした雰囲気を水差すように突然旅籠に悪魔の物としか思えない脅迫の声が響き渡ったり、城の濠で突然足が動かなくなったり、跳開橋を降ろそうと鎖を触った途端に気を失って崖から落ちたり、夜中にかつて愛した歌姫の歌声が聞こえたり、はたまた亡くなったはずの歌姫その人が現れたりと到底あり得ない事象が起こるのだが、これらは全て科学的に解明がなされる。
つまり本書は今まで幻想だと思われていた、怪異だと思われていた事象が科学によって解明されること、もしくは科学によって魔法は生まれるのだというのを証明した作品と云えるだろう。

おどろおどろしい物語設定の中に近代的技術が混ざり合うことで物語の最初と最後では全く味わいが異なっている。それを可能にしたのはやはりトランシルヴァニアの山岳地帯とその中でも最も原始的な地帯と云われている人口数百人のヴェルスト村を物語の舞台にしたこと、そして曰く付きのカルパチア城の城主を謎めいたゴルツ男爵にしたことだろう。

物語はシンプルだが、そこに放り込まれた装飾の数々は従来のヴェルヌ作品同様実に濃密だ。物語の舞台となっているヴェルスト村及びその周辺の地形や成り立ち、さらに架空の城カルパチアの成り立ちと城主ゴルツ男爵一家及びそれに対抗するテレク伯爵の歴史などがふんだんに語られ、恰も1つの伝記を読まされているかのような真実味に溢れている。

(以下ネタバレ)

ヴェルヌにしては珍しく1人の女性への一途な愛をモチーフにしているが、その女性、歌姫は幻に過ぎなかった、しかも当時最先端の技術で作り上げた幻想だったという真相は、今ボカロとして絶大な人気を誇っている初音ミクを扱った先駆的なテーマだと考えるのは行き過ぎだろうか。
いや私はこの作品が書かれた19世紀と21世紀の今ではほとんど男たちの考えることは変わらず、科学の進歩につれてそれがどんどんリアルになり、現実との境が曖昧になってくるだけに過ぎないのではないかと思わざるを得ない。
テレク伯爵とゴルツ男爵は初音ミクに没頭するファンたちと何ら変わらないのだ。

ただ一ついいことは初音ミクは共有できることで彼らと違い、歌姫を我が物にしようと争う必要がなくなったことだ。それこそが科学の進歩の大いなる成果と云えるだろう。

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