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ミステリの祭典

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レディ・ジャングル
私立探偵リック・ホルマン

作家 カーター・ブラウン
出版日1964年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2019/08/04 01:17登録)
(ネタバレなし)
 「おれ」こと、ハリウッドの辣腕トラブル・コンサルタントとして名を馳せる私立探偵リック・ホルマンは、映画会社「カデンザ映画」から依頼を受ける。その内容は、イタリアの若手美人女優カローラ・ルッソを主演に迎え、アメリカの人気男優ダン・ギャラントと組ませた新作映画を準備していたところ、その二人が恋に落ちて出奔した、しかもカローラを発掘したイタリアの名監督ジノ・アマルディと、ダンの嫉妬深い妻モニカ・ヘイズもこんな事態に騒ぎ出しているので、早急にカローラとダンを見つけて穏便に連れ戻して欲しいというものだった。カデンザ映画の宣伝課長でブロンド美人のリノア・パーマーから、ダンが潜伏している可能性がある場所の情報を得たホルマンは現地に向かう。そこでホルマンは、揉めている最中のカローラとモニカ、そして銃で撃たれて負傷した状態のダンの姿を認めた。

 1963年作品。リック・ホルマンシリーズの第6作目(ミステリ研究サイトaga-search.cの書誌データから)。
 評者は数年前から、カーター・ブラウンの諸作はひさびさに数冊ほど読んでるが、最近手にした中では今のところこれが一番面白かった。
 田中小実昌の翻訳が快調なのは間違いないが、それを抜きにしても、わずかでも隙があればそこを埋めようと飛び出してくるワイズクラックやイカれたジョークの物量感が、本作は並々ならない(笑・特に前半)。
 さらにシンデレラ・ストーリーを自ら語る風を装いながら、その実、自分がいかに苦労してきたかの不幸自慢をしたがる若手女優カローラの甘ったれぶりを、ホルマンがごくドライに(ある意味では相手のために親身に)突き放す態度なんかもとてもいい。しっかりハードボイルド探偵らしい、骨っぽさである。

 ミステリとしても後半まで登場人物同士の掛け合いで読ませながら、最後の方で加速度的な緊張感を増す。
 そして犯人のキャラクターはかなりイカれていて、鮮烈な印象を残した。
 犯罪が成立する過程もかなりぶっとんでいたが、ネジの緩んだ思考の真犯人当人にとっては<そういう形>で事態を進めたかったという執着があったのだろう。そんな理解も確かに可能である。

 実際のところ「カーター・ブラウン」が一種のハウスネームで、ある種の作家工房だったらしいことは今ではもう定説なのだが、それではコレはきっと、かなり上位のランクの腕のいい作家に当たったんだろうな。
 この作品は最終的にいかにも都合良く事態が収まる部分もないではないのだが、そこら辺まで含めて、安心できる職人芸の筆捌きという趣で楽しかった。

 しかし最近、Twitterなんか見ていると、21世紀の今になって、なんでこんな若い世代の子がカーター・ブラウンを読んでるの? と思うことがごくタマにあるんだけれど、まあこういった作風の面白さ・楽しさが、新世代の好事家ミステリファンの心の琴線のどっかに、時代を越えて引っかかっている(?)というのなら、それはホントに結構なことである(笑)。

【2019年11月20日追記】
21世紀の現在ではカーター・ブラウンがハウスネームというのは、疑義があるらしい。情報の出典はミステリマガジンの2006年の号での特集記事らしくて同号は買ってあるはずだけど、すぐに出てこない。見つかったら確認してみよう。とりあえずこの件は保留で(汗)。

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