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ミステリの祭典

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うさぎ強盗には死んでもらう

作家 橘ユマ
出版日2016年12月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2019/07/31 20:41登録)
(ネタバレなし)
2015年11月。京都の左京区。アパレル店員・日名子麻実のマンションに空き巣に入った、泥棒カップルの黒崎雅也と天野樹里。やがて両人は場違いな痴話ゲンカに興ずるが、その向かいのオフィスビルの屋上では、青年・篠原斗真が彼らの様子を窺っていた。篠原は恋人の須崎奏を殺害した人身売買組織M&Dに報復するため、同社に潜入入社。忠実な社員の顔を装いながら反撃の機を狙い、現在は自分の良心を包み隠してM&Dの新たな標的にされた麻実の拉致作戦に参加していた。だがM&D幹部の川浪は篠原に不審の目を向け、身の証を立てさせるために、その場に現れた泥棒たちの殺害を指示する。

 ネット小説の新人賞のひとつ「カクヨムWeb小説コンテスト・ミステリー部門大賞」の第1回受賞作。
 2015年11月の京都での現在形の物語と並行して、2014年に上海の裏社会を翻弄した謎の天才少年ギャンブラー「うさぎ強盗」の逸話、暗黒界の殺し屋世界の逸話などが語られ、時系列がバラバラに並べられたそれぞれのエピソードがだんだんと複合的に絡み合っていく。

 一読、それはありか? といいたくなるような反則技っぽいものまで含めて(中略)トリックを雑多にぶっこんだ内容で、一回読み終えた時点の現状では、すべてを理解しきっている自信はない。むろんポイントとなっている楽しみどころのいくつかは賞味できたつもりだが、作者の設けた仕掛けを満喫するには、たぶん最低でもあと一、二回は読み返す必要があるだろう。
(第13章のラスト、あのキャラクターは結局(中略)?)

 クロージングのひねくれたやさしいまとめ方を含めて、種々のギミックとアイデアを盛り込んだ力作だとは思うが、終盤に明かされる主人公「うさぎ強盗」の行動の人を食った動機が、なんかいかにも「昭和のいい話」風である(笑)。その辺のへっぽこ感もあえて承知の上でやってるんだとしたら、なかなか侮れない気もする(まあその部分に関してだけは、たぶん天然っぽいけど)。
 
 成田良悟作品とか伊坂幸太郎作品とかのスタイルに似てるとかのweb上での声もあるようで、その辺の著作はまったく読んでない訳ではないけど縁が薄い評者にとっては、なんとなくわかるようなそうでないような。
 単純に面白いかというと現時点では微妙なんだけど、少し時間をおいて再読してみると何か見えてきそうな期待感はある一冊。 

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