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ミステリの祭典

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忍法創世記
忍法帖 山田風太郎コレクション2

作家 山田風太郎
出版日2001年09月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点
(2019/11/24 05:09登録)
 明徳元(1390)年三月、時は南北朝争乱時。長きにわたり角逐を続けてきた大和の柳生と伊賀の服部は悪因縁を断ち切るため、柳生三兄弟と伊賀三姉妹の婚礼という形で和合を成し遂げようとしていた。両者の境にある月ヶ瀬の南岸桃香野で、梅花あふれるなか合一の儀式を行うのだ。
 ところがこれに待ったを掛ける者が現れた。いずれも南朝に組する大塔衆と菊水党だ。将軍家指南役中条兵庫頭に率いられる前者は柳生に、寵愛の能役者世阿弥につれられた後者は伊賀に肩入れし、それぞれ剣術と忍法とをもって南朝方の持つ〈三種の神器〉を北朝方に渡る前に争奪・護持しようとしていたのだ。南朝の右大臣・吉田宗房と北朝の柱石・管領細川頼之の談合により、南北合一が成ろうというまさにその折りのことだった。
 彼らの到着前に桃香野の儀に敗れた柳生の次兄・七兵衛と伊賀の末娘・お鏡は、それぞれ婿と嫁として敵地に迎えられ、七兵衛は忍法、お鏡は剣術を学ぶこととなる。大塔の宮・護良親王の命脈を守り、剣術の祖・中条兵庫の弟子たる七人の大塔衆と、楠公・楠正成から伝承された忍法を操る七名の菊水党、そして彼らに鍛えられた柳生三兄弟と伊賀三姉妹、果たしてこの神器争奪戦の行方は?
 雑誌『週刊文春』に、昭和44年4月28日号~昭和45年2月2日号まで連載。二十六作ある風太郎忍法帖の最終作にして、最後に単行本化された作品。年代順に並べると次に来る「伊賀忍法帖」が百七十二年後の戦国期ですから、時代的にはかなり間が開くことになります。
 十名VS十名の変則トーナメントですが、序盤から中盤にかけてはやや単調。柳生兄弟も伊賀の姉妹も未熟な上、いちいち忍法を考えるのがめんどくさかったのか、花の御所や五条大橋での対決で大塔衆・菊水党の約半数がふるい落とされます。
 ただ本命の神器争奪に入ると雰囲気は一変。南朝の本拠地・吉野の奥地に舞台を移し、八咫鏡・八坂瓊勾玉・天叢雲剣を巡って夫婦となるはずだった三兄弟と三姉妹の個別対決に。半数以下となった大塔菊水も執念を燃やし、残念気味だった剣術忍法決戦にもがぜん力が入ってきます。
 特筆すべきはこの後半に登場する妖剣士〈牢の姫君〉こと幸姫。大塔衆を統べる十五歳の天才少女剣士で、憤死した護良親王のおん曾孫姫。曽祖父の怨念の籠もった凶刃「牢の御剣」を操り、大剣士中条兵庫すら怖れる剣の天稟を秘めています。
 風太郎作品は剣聖最強ですが、その嚆矢たる存在を圧倒し去る実力、天皇家に連なる血筋、妖艶にして残酷可憐な天性とほぼ無敵で、本作のみならず忍法帖シリーズ有数のキャラクターと言えるでしょう。彼女が中盤付近でチラチラ登場していれば、出来栄えはもっと上がったかもしれません。
 それに対するに室町の魔童子ことトリックスター足利義満を配し、花の御所での世阿弥演ずる薪能をバックに結末を付ける豪華さ。作者評価の低さゆえ危惧されていましたが、忍法がアレな以外はかなりの作品でした。ただ「八犬傳」と同格とまでは言えないなあ。6.5点。

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