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ミステリの祭典

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焼跡の二十面相
怪人二十面相パスティーシュ

作家 辻真先
出版日2019年04月
平均点4.00点
書評数1人

No.1 4点 人並由真
(2019/07/26 17:55登録)
(ネタバレなし。ただし乱歩の『妖怪博士』『青銅の魔人』については多少触れます。)
 日本全土に玉音放送が流れた、昭和二十年八月。欧州に出征した名探偵・明智小五郎はいまだ復員せず、明智夫人の文代は現在も軽井沢で療養中。明智の本宅と探偵事務所は、明智の助手で少年探偵団の団長・小林芳雄少年がその留守を預かっていた。そんな中、なじみの中村善四郎警部に再会した小林君は、往来を走る密室状況の輪タクの中で起きた不可思議な殺人事件に遭遇。突然起きた怪事の勢いは、名探偵不在で今しも進駐軍を迎えようとする東京に、さらなる事件を呼び寄せる。それこそは、かつて三つの事件で明智と少年探偵団を翻弄した稀代の怪盗・二十面相の復活だった。

 結論から言えば、得点要素だけなら、なかなかの秀作&力作。
 しかし正統派パスティーシュ(パロディではなく、あくまで正編に限りなくニアイコールな贋作)仕様として見るなら、あまり褒められないかなりの手抜き作。
 
 物語の前半から盛り込まれる不可能犯罪の謎、『大金塊』オマージュの暗号の謎、原点の乱歩の(中略)世界へのリスペクトであろう独特な舞台空間、良い意味で猥雑な二転三転のミステリ活劇、そして何より、日本の世相が変わる瞬間の強烈な臨場感を正にその時代に生きていたものの思慕を源に、描き抜こうとする作者の情熱……この辺はまあ、みんなホメていいところだと思う。先にちょっとTwitterを覗いたら誰もが絶賛の嵐なんだけど、みなさん、この辺を評価してるんだろうね、たぶん……。

 だけどね、自分はあえて言いたい。
 ……ここまで丁寧に、乱歩の正編を意識したパスティーシュをまとめかけ、さらには前述の『大金塊』ばかりか『妖怪博士』の<あの設定>まで呼び込むという少年探偵団ファン目線のサービスをしておきながら、そのくせ、肝心の乱歩の正編で戦後復活編の第一弾『青銅の魔人』とまったく描写が整合はおろかリンクもしないって、どーゆーことなの?! 
『青銅の魔人』本編のクライマックスでは、明智と正体を明かした二十面相はあくまで戦後初めての再会(正体の名乗り合い)をしてるよね? 
 終戦直後の時点では、小林少年も警視庁の捜査陣をふくめた周囲の人間誰にとっても二十面相は『妖怪博士』のラストで爆死したはず、という認識のはずだよね?
 少年探偵団ファンを喜ばすために作っておきながら、その辺の少年探偵団ファンなら誰もが知っているイロハレベルの認知がまったく欠損してるって、どーゆー作品なんだ? 

 だから実は今回、当初は結構、期待して読んだんだよ。
 今回の新作パスティーシュの中で起きた事件や出会いはうまいこと何らかの巧妙な事由によって、正編の歴史の中に埋め込まれる。実は『青銅の魔人』以前に彼ら(巨人も怪人も少年も)はここ(この新作『焼跡の二十面相』の作中)でちゃんと会っていたんだ、しかし、しかるべき理由ゆえに、その事実は今まで歴史の中から秘匿されていたのだ、と読む読者、乱歩ファン、少年探偵団ファンを説得にかかる手の込んだ文芸があるんじゃないかって。
 結果、この堂々たる空振りぶりは開いた口が塞がらなかった。
 結局、ただの、ご都合的に、辻褄が合わなくなったその場その瞬間に分岐して出現するパラレルワールドですか、そうですか。
 だったら中途半端に正編からのネタ仕込みなんてことやんないで、キャラクターの大枠だけ借りたもっと好き勝手なものを初めからやればよかったのになー。
 いかにもそれっぽい正統派パスティーシュ、組み合わせようによってはうまいこと(本当にウマイこと)正編に混ぜ込めそうな「よくわかっている」作品が今回は読めそうだと思ったのに、とても残念。正直、個人的にはラストの噴飯もののお遊びなんかどーでもいいから、もっと中身の方を「しっかり」した作りにして欲しかった。
 
 良いパスティーシュの条件というのは、実はそんなに多くない。
 あくまで正編世界の約束事や劇中設定を損壊しないこと(解釈によって、実はこれまでの物語世界の事態の裏に、こういうことがあったのだ、はOK)。
 その上で、原典の作者・作品へのリスペクトの念を抱きながら、新世代または後発の作家としての独自のカラーも出すこと。
 絞り込んだら、結局はたった、この二つだけだろう。
(まあシロートが生意気言うのはとんでもなくおこがましいほど、実作者にとっては大変な作業なんだろうとは思いますが。)
 
 とにかく今回はTwitter界隈での絶賛・マンセーぶりがすごく気に障るので、評点はあえて厳しめにつけておく(怒)。冷静に見たら、もう1点くらいはあげてもいいと思うけれど。

【追記】この本、戦後の「少年探偵団シリーズ」のフランチャイズだった少年誌「少年」の版元の光文社から出ているというのが何か笑える。なんで戦後「少年探偵団」のご本家が、その歩んできた作品世界の歴史に、自分から後ろ足で砂をかけるような新刊本を出しているのか?

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