十億ドルの死体 ジュードー教師、ダニエル(ダン)・モリスン |
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作家 | ジョゼフ・シャリット |
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出版日 | 1958年01月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | |
(2019/07/22 19:50登録) (ネタバレなし) 第二次大戦後のフィラデルフィア。「ぼく」こと、27歳のジュードー教師、ダニエル(ダン)・モリスンは、地元のスポーツクラブで警官相手に体術のコーチを行っていた。そんなダンの前にクラブの理事で大規模な製薬会社の社長であるフレデリック(フレッド)・ギルハムが現れ、彼の一人娘で19歳のマージョリー(マーギー)の監視役を願い出る。マーギーは社交界を騒がすお転婆で、その暴走ぶりは連日の新聞種にもなっていた。ダンは住み込みでマーギーのお守り役を務めるが、当人はダンを敬遠しながらも関心を示し、ジュードーのコーチも願い出た。だがギルハム家にはフレッドの妻でマーギーの母、見事な肉体を持つコケティッシュな熟女コンスタンス(コニー)ほか、少しクセのある面々が同居。そんな中、ダンはこの家から去るように匿名の電話を受け、それと前後して邸内では突然の変死事件が発生する。さらには家人への脅迫、そして第二の悲劇へと事態は波及し……。 1947年のアメリカ作品。巻末の都筑道夫の解説によると、作者シャリットは本書が処女長編で、数年間の活動期間内に長編を4つだけ残した作家らしい。 (なお英文Wikipediaによると、1995年の没年までの経歴は記述されている。) その長編4作全部が、本作の主人公のジュードー教師、ダン・モリスンものらしいが、日本では本作しか紹介がない。 派手な邦題もなんとなく気になって、どんなのかなとAmazonで古書を送料別1080円でだいぶ前に購入し、しばらく読まないで放って置いたら、現在では古書価が100円前後に下がっている。プンプン。 ソレで肝心の中身の方だが、高い? お金払った悔しさから負け惜しみを言うわけではないが、予想以上になかなか面白かった。一人称視点による物語はスピーディに淀みなく進むし、メインヒロインのお嬢様は21世紀の学園ドタバタコメディのラノベヒロインなみに動きまくるし、それっぽく配置された屋敷の内外の登場人物はくっきり書き分けられているし、肝心の殺人事件はハイテンポに起きるし、最後の犯人の正体はなかなか意外だし(手がかりがもう少し欲しい気はないでもないが)。フーダニットの興味も組み込んだ行動派アマチュア探偵小説の佳作で、手慣れた軽さもミステリのひとつの大きな魅力だよね、といえる一冊。 ちなみに原題も「The Billion-Dollar Body」だが、このBodyには熟女の人妻コニーの魅力的な肉体、の意味もある。 そもそも本の巻頭を見るとおなじみ早川の翻訳権独占の表記もないし、もしかしたら安いレートで、向こうの出版社か翻訳代理店との翻訳契約冊数の頭数合わせで訳出された作品でないの? という気もしたが、巻末での都築の言を素直に信じるなら、当時のポケミスの中にこういう軽ハードボイルド路線をもうちょっと入れてみようという試みでセレクトしたそうな。なるほど、まあ、実際の背後事情はともあれ、1950年代末の日本の翻訳ミステリ読者に、改めて軽ハードボイルドって案外いけますよ、という趣旨を伝えるというのなら、これはその命題に応えた、結構イケた作品であった。興味ある人は、古本で安く出会えたら読んでみるのもオススメします。 |