(2019/07/05 20:49登録)
(ネタバレなしです) あのタイタニック号の沈没事故に乗り合わせてまだ30代の若さで落命してしまったアメリカのジャック・フットレル(1875-1912)と言えば思考機械シリーズで有名です。ロボット探偵とかAI探偵とかではなくれっきとした人間で、「2たす2はつねに4なのだ」というせりふをよく使い、「不可能」という言葉を使われるのが大嫌いです。作者は短い生涯の間にシリーズ作品を長編1作と50作近い短編を残しましたが単行本化されてない作品も少なくありません。没後100年を過ぎて2019年に国内出版された作品社版(全二巻)はおそらく世界初の完全全集版という大偉業です。お値段ははっきり言って「とても」高いのですが、新聞発表されてそれっきりだった作品をかき集める苦労を考えるとあまり文句は言えませんね。第一巻の本書は長編「黄金の皿を追って」(1906年)、作者の生前に出版された第一短編集(1907年)の全7作、第二短編集(1908年)からは序章的な「思考機械」と5作(残り8作は第二巻)、そして単行本化されなかった短編5作を収めてます。初期作品が懸賞小説だったのは驚きで、有名な「十三号独房の問題」でも思考機械の脱獄トリックを読者に当てさせてます。途方もない真相の「百万長者ベイビー・ブレイク誘拐事件」さえも消えた足跡トリックをほぼ完璧に当てた読者がいたのはすごいですね。容疑者の言動が不自然過ぎるほど怪しいとか推理の粗いのが気になる作品もありますが、第一短編集の作品は(懸賞小説だけあって)プロットは複雑、謎解き伏線も当時としてはかなり気配りされた力作が多いです。第二短編集になるとページ数が少なくなってシンプルになり読み易い半面、出来不出来が目立ちます。個人的な好みは「ラルストン銀行強盗事件」、「燃え上がる幽霊」、「赤い糸」、「行方不明のラジウム」です。あと「黄金の皿を追って」での思考機械のあわてふためく場面には思わず笑ってしまいました。
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