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ミステリの祭典

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作家 ロザリンド・アッシュ
出版日1979年10月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2019/07/03 20:26登録)
(ネタバレなし)
 ロンドン周辺の田舎町サットンハムデン。当地の、数世紀前に建てられた屋敷「ダワー・ハウス」は、かつてゴールドスミスやボズウェルのような18世紀の大物作家、それに当時の美人女優サラ・ムーアなども滞在した由緒ある旧邸宅だったが、今は一般向けの賃貸物件となっていた。「私」こと経済学の大学研究員で独身のハリー・ハリスは同邸宅を借りようか検討するが、結局、たまたま同じ大学に新任教授として着任したばかりの40代のジェイムズ・ボイス博士と、その妻で30代初めの美人ネモジーニ(ネモ)に先に契約されてしまう。同じ物件を取り合った縁でボイス夫妻と友人になったハリーだが、いつしかその心は魅力的なネモへの劣情に傾いていった。だがそんな中、ハリーはくだんのダワー・ハウスに何か魔性のものが取り付いていることを察知する。それは美貌の若妻ネモの心身に憑依した、150年前の女優サラの死霊であった。

 1976年の英国作品。サンリオSF文庫の中では<本書の巻末のあのトピックス>で頗る有名な一冊だが、評者がくだんの事実を初めて知ったのは確か1990年代の「本の雑誌」誌上の記事だったような。それから20年以上経ったいまではTwitterを初めとするwebのあちこちでもういいかげん耳タコのネタで、笑うのにもとっくに飽きた。じゃあ肝心の作品の中身の方はどうなんだ、と本文を読んでみた。
(なおこの本についてまったく初耳で、どこがどうヘンで笑えるのか興味がある人は「ロザリンド・アッシュ」「蛾」「川本三郎」とかのキーワードを並べてWEBを検索してみましょう)。

 それで本作がオーソドックスなゴーストストーリーという情報は以前から見知っていたが、実際に読んでみても、いい感じに70年台っぽい当時のモダンホラー的な雰囲気に、正統派の幽霊屋敷譚が組み込まれた一編であった。巻末の訳者あとがきではデ・ラ・メアやM・R・ジェイムズの技法に倣い、といった趣旨の指摘が語られているが、評者はそちらの方にはあまり詳しくないので、何とも言えない。ただしまあ、古色豊かなゴシック・ロマンをモダンホラーに新生させるという狙いの上では、成功しているのではないか、と思う。
(ちなみに物故した女優の死霊が現世のメインヒロインに憑依してと言うと、まんまジャック・フィニイの『マリオンの壁』だが、もちろん向こうみたいなノスタルジア・ファンタジーの情感の類は皆無だ。好事家は、双方を読み比べても面白いかもしれない。)
 
 前半、ハリーの前にサラの亡霊が初めて出現するここぞというタイミングの絶妙さ(地味で古い手法かもしれないが、それだけになかなかコワイ)も、後半、魔性のものが引き起こす連続殺人に地方警察の捜査陣が介入してくるローカル・ミステリ風の筋運びなどもそれぞれかなり手慣れた筆致で、最後までぐいぐい読ませる。主人公ハリー自身が(中略)叙述も、一人称という形式だからこそ、独特の効果をあげている。
 なおダワー・ハウスにあだなす死霊サラの行動は、ネモへの憑依が主体だが、一方で相応に気まぐれにも見えなくもない。不条理な魔性のものだからこそ、呪いや悪行に何らかのロジックが覗いた方がかえって怖いのでは、と評者などは思うのだが、まあこの辺は感覚的なものかもしれない。冥界の死霊に行動の規範の類を求めても仕方がないだろうし。
 ラストはやや唐突な感じだが、たぶんその展開はサラが(中略)という暗示であろうし、そう受け取るならじわじわ来る余韻がある。
 英国産の70年代クラシック風モダンホラー&ゴーストストーリーとして佳作の上。

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