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ミステリの祭典

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地獄の扉を打ち破れ
エド・ジェンキンス/ボブ・ラーキン/ケン・コーニング&ヘレン・ヴェイル

作家 E・S・ガードナー
出版日1962年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2019/06/27 19:38登録)
(ネタバレなし)
 メイスンがデビューする『ビロードの爪』(1933年)の前年、1932年に「ブラック・マスク」に掲載されたガードナーの当時のシリーズキャラクターものの5編を集めた中短編集。ミステリデータサイト「aga-search」の情報によると、日本独自に編纂・集成した一冊らしい。

 収録作は
①「あらごと」(幻の怪盗エド・ジェンキンスもの)
②「ブラック・アンド・ホワイト」(同)
③「二本の足で立て」(秘密機関員ボブ・ラーキンもの)
④「浄い金」(青年弁護士ケン・コーニング&秘書ヘレン・ヴェイルもの)
⑤「地獄の扉を打ち破れ」(同)

①と②は完全な正編&続編の姉妹編。ガードナーのストーリーテラーぶりが短い紙幅の中でも十全に発揮された作品で、特に②の方は通例の義賊ものというかプロフェッショナルによる悪党を罠にはめる作戦ものならモブキャラに終りそうなある種の登場人物を物語の表に出し、ひねった筋立てに仕上げた秀作。前身である犯罪者からの精神的な脱却を望みながら、悪党相手には縦横無尽の機動力を出し惜しみしないジェンキンスのキャラクターもいい。
③は①②同様、一人称の「わたし」で物語が開幕するが、先の説明通り、主人公は別のキャラクターに交代。物語の場も変っているのだが、読む際にその辺の頭の切り替えがしにくくて面白がるペースを掴み損ねた(涙)。④⑤のコーニングものが三人称なので、収録の順番はこの③を一番最後にしてほしかった。最後のオチを読むと、これがこのラーキンものの第一弾だったのかな?
④⑤の主人公コンビは本書の裏表紙などでは、メイスン&デラの前身キャラクターという触れ込みで紹介されているが、評者がここしばらくメイスンものを読んでいないこともあるせいか、とても新鮮な感じで面白かった。特にヘレンのおきゃん(死語か?)なヒロインぶりは、評者がアメリカンミステリの秘書キャラクターに求める魅力が炸裂で、すごく楽しい(笑)。このコンビの未訳の事件簿がもしまだ残っていたら、どんどん訳してほしい。それで⑤の方の、夫のために自分を有罪にしてほしいと願い出てくる依頼人から始まる筋運びは、たしかにメイスンものの先駆っぽいぞ。なおフーダニットのミステリとしてはそれなりに意外な設定の犯人だと思うが、犯行の流れにひとつふたつ疑問が残らないでもないが。あと⑤の事件の内容そのものは、邦題ほど強烈で大袈裟なものではないと思うけど(笑)。 

 なお本書は表紙周りや奥付を見る限り、全部が井上一夫の翻訳のようだが、④のみ実際には平出禾の訳文(本文の最後に小さくそう表記してある)。
 
 んー、ガードナーのシリーズキャラクターものの短編集、今からでも何冊かまとめて発掘刊行されてもいいんじゃないかな。翻訳権ももしかしたらもうフリーになってるかもしれないし。
(もともとの掲載誌が同じだかバラバラだかのどっちかで、翻訳権上の制約がかかるんだっけ。)

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