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ミステリの祭典

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海竜めざめる
別邦題『海底の怪』

作家 ジョン・ウインダム
出版日1956年01月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2019/06/16 17:30登録)
(ネタバレなし)
 「私」こと英国の放送局EBC(BBCに非ズ)の若手契約スタッフ、マイク・ワトソン。彼は愛妻フィリスとの新婚旅行の船旅中、アフリカの洋上で5つかそれ以上の怪異な巨大な球体が天空から飛来し、海中に没するのを目撃する。ワトソンが客船の船長に目撃談を語ると、前年にも類例の事態が確認されていたことが判明。ワトソンは早速、EBCを通じてこのニュースを流すが、その報道は官民各所の関心を呼び、やがてこの最近、各地で不審な海難事故が生じていることも明らかになってくる。かくして海軍省ウィンタース大佐の支援体制のもと該当の海域への調査が行われるが、深海に沈めたバチスカーフ(本文中では「バチスコーフ」表記)は調査員を乗せたまま海中で消失。そして洋上の船とバチスカーフを連結するワイヤーは途中から、かみ切られたのでも引きちぎられたのでもなく、まるで超高温で溶解されたように丸くその端が溶けていた……!
 
 1953年の英国作品。『トリフィドの日(トリフィド時代)』のウィンダムによる長編SF。
 子供の頃はこの魅力的な邦題とそれっぽい英国版の原題(The Kraken Wakes)からガチで大型恐竜、またはクラーケンのような非常識なサイズの大怪獣が登場するのかと期待したが、実際の内容は当たらずとも遠からず……ではあった。
 現実に書かれた時代がそうだから当たり前なんだけど、50年代SFモンスター映画の雰囲気が芳醇で、かつて中子真治の「フィルム・ファンタスティック―SF・F映画テレビ大鑑」全6巻のうち、真っ先に第2巻と第3巻にとびついた評者のような人間からすれば、ツボにはまりまくりの一冊であった(笑)。どのような怪獣SFになるかは、ネタバレになるからここでは書かないが。

 主人公の夫婦コンビ視点から語られる、宇宙モンスターのために世界各地の日常が徐々に危ういものになっていく感覚が絶妙で、地球の危機に対応する学会のはみ出し者風の科学者ポッカー博士が、事態の推論に関してホームズとワトソンの逸話を引用するのも楽しい(主人公ワトソンが自分と同じ名前を思いがけないところで聞いたと、地の文でツッコミを入れるのも笑える)。
 新古典クラシックSFとして、終盤に迎えるそれっぽい世界的なパースペクティヴも加速感があっていい。海洋国家だった英国への文明批評も程よいさじ加減で、品があってよろしい。
(まあ細かいことを言えば、後半、主人公たちの生活の基盤で、あの辺はどうなってたんだとか、いくつかツッコミたくなるところはあったけれど。)

 物語の最後の着地点についてはもちろんここでは書かないが、個人的にはなかなか気持ちよく頁を閉じ終えられた。旧作なんだからクロージングはコレで良かったとは思う。(中略)について、妙な余韻が残るところも悪くない。

 あとネタバレにならないように注意しながら書くけれど、ラストの展開は日本語で読めたことがとても幸福であった。Webを検索すると、21世紀にはどっかの日本の学者さんが、作者ウインダムが導入したこの設定について独自の考察をしてるみたいである。どっかでその論文、お目にかかる機会でもあればよいが。

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