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ミステリの祭典

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バカンスは死の匂い

作家 モニック・マディエ
出版日1981年11月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2019/06/15 19:57登録)
(ネタバレなし)
「わたし」ことローランスは、パリの服飾会社で社長秘書を勤める24歳のブロンド娘。ローランスは夏期休暇を利用してコルシカ島へのひとり旅に出たが、宿泊予定のホテルの宿代が予想以上に高く、仕方なく観光案内所でたまたま出会った女性・トゥサント夫人の民宿に泊まることにする。民宿には夫人の義母である老婆レスティチュードがいるだけで他の客はおらず、しかも隣は墓地という辺鄙な場にあった。宿泊した最初の夜、ローランスは室内に現れた幽霊と対面。翌朝、早速、宿を退去しようとするが、女主人のトゥサントは妙な噂を流して宿の評判を落とすなと、ローランスを鍵のかかる部屋に閉じ込めてしまう。窮地のなか、ローランスのことが気になった観光案内所の青年パスカルが民宿を訪れ、ローランスは囚われたままで彼に事情を語り、救出を願い出る。救助の用意をするために束の間の猶予が欲しいと一旦、退去したパスカルだが、二時間しても彼は戻らない。しびれを切らしたローランスは必死に独力で民宿を脱出し、地元の憲兵隊の詰め所に駆け込む。だがそこで彼女が聞かされたのは、青年パスカルがほんの少し前に刺殺死体で見つかったという驚愕の事実だった。事態の流れに驚くローランスは、憲兵隊を訪れていたパリ警察の刑事見習いの美青年ジャン・クリストフ・アラールとともに、この事件の捜査を始めるが……。

 1975年のフランス作品で、同年度のフランス推理小説大賞受賞作。ラブコメ風の設定とストーリーの梗概にある「幽霊屋敷」のキーワードに惹かれて手に取ったら、2時間もかからずに読み終わった。主人公(ヒロイン)が男子主人公のアラール刑事に出会う24歳まで恋もしたこともない美少女のパリジャンという文芸設定もアレだが、全体的にライトな作り。当時、赤川次郎の諸作が人気を呼んでいたから、翻訳もの&フランスミステリで似たようなものがありませんかと編集者に言われた長島良三が、ホイホイとこれを持ってきたんじゃないかという感じである。

 幽霊出現の事由や秘められた犯罪の実体には終盤に一応の説明がなされるが、そのすべてがスーダラで、真犯人の意外性も予想の範囲内。
 まあ小学生高学年か中学一年生くらいがはじめて肩慣らしに読む翻訳ものとしてはいい……かも? しれん(一方で、なんだ翻訳ミステリってこのレベルか! と誤解が生じる危険性もたぶんにあるが)。
 コージーもの? のライトミステリとしては大きな破綻もないし、昭和30~40年代の少女漫画の一系譜みたいな作品と思って読む分には、まあオッケーか。 

 とはいえなんかもし、21世紀にこれが初めて刊行されていたとしたら、その手のラブコメ・コージー旅情ミステリのあるあるパターンを寄せ集めてでっちあげた冗談パロディ作品みたいに見えること間違いなしの一編でもある。
 評点は、天然で憎めない作品ということで、0.5点オマケ。 

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