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ミステリの祭典

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緑色遺伝子

作家 ピーター・ディキンスン
出版日1979年06月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 クリスティ再読
(2019/06/15 19:29登録)
ディキンスンというと、ミステリ枠の作品でもSFっぽい設定があったり、本作みたいに一応SF枠だけど人種差別と文化摩擦を扱ったリアルテイストだったり、ジャンル分けが無意味な作家の代表みたいなものだろう。
いつの頃からか、白人の親から緑色の赤ん坊が生まれるようになったイギリス。この緑色人種を生み出す遺伝子は、ケルト系と関係があるようで、ケルト&緑色人種からサクソン人を守る、厳格な人種隔離が施行されていた。そこにインドから、天才的な医学統計学者ヒューマヤンが、この緑色遺伝子の謎のヒントを掴んだことから、イギリスで研究するように「人種関係局」によって招聘された。滞在先は人種関係局の幹部グリスター博士の家、その2人の娘、ケイトとグレンダとも親しくなるが、緑色人種のメイド、モイラグの敵意に悩むようになる。差別を受けるケルト系過激組織のテロが頻発するなか、ヒューマヤンはモイラグ殺害、グリスター邸の爆破に続いて、過激組織に誘拐された....
という話。ヒューマヤンは天才的な科学者だが、迷信的な信仰も両立する規格外の人物。もちろん、実在の天才数学者ラマヌジャンの面影がある。ディキンスンは、ちゃんとしたリアルな科学者らしさがありながら、それから逸脱する神秘主義を両立させる、言ってみればニューエイジ風の科学者像が得意(「生ける屍」でも「毒の神託」でも...)だが、これがバカバカしく浅薄に見えないのがさすがのところだろう。でもね、ディキンスンの才筆をもってしても、ラマヌジャンの内面を描こうというのは無謀すぎる。
しかし本作だと、この緑色遺伝子に関するヒューマヤンの結論が今ひとつ不明だ。そして、ウェールズやコーンウォールのようなケルト文化の残る地帯、そもそも別国だったスコットランド、ケルト文化の「緑」の島であるアイルランド...と今でもイギリスに残る文化的な差別と軋轢感が、日本人だとピンとこない。難しいなあ。せいぜいIRAくらいなら宗教対立で何とかなっても、本作の人種差別体制はもっと「肌合い」に近いような微妙なものをベースにしているのだろう。
まあ、エンタメとしても今ひとつ歯切れが悪い話。コンピュータにヒューマヤンが仕掛けを施すのだが、訳文なのか、時代なのか、作者のコンピュータ理解の問題なのか、今ひとつ何がなんやらわからない。けどこれは明白に訳の問題だろう。

その負者(マイナス・ワン)が想像上のふたつの立方根を自身以外にもっていて....

「想像上」は imaginary だからこれ明白に「虚数」のことを言っているんだよ。数学用語は意外なくらいにベーシックな英単語が術語になってるから、気をつけなきゃね。

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