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ミステリの祭典

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追われる警官
ショーン・スカリー

作家 スティーヴン・キャネル
出版日2003年08月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2019/06/08 18:15登録)
(ネタバレなし)
 ロスアンジェルス市警南西署の巡査部長で37歳のショーン・スカリーはその夜、自宅にいたが、以前に男女の仲だった人妻バーバラ・モラーからの救いを求める電話で呼び出される。バーバラの夫レイはショーンの先輩で元相棒の警部補だが、最近は疎遠。ショーンが彼らの家に急行すると、そのレイがバーバラを一方的に警棒で連打して怪我を負わせていた。制止しようとするショーンにレイは拳銃を向け、ショーンはやむなく彼を射殺する。妥当な正当防衛のはずだが、レイはロス市長の警護役兼運転手の役職にあり、市の要人や市警上層部から目をかけられていたため、ショーンへの嫌疑と外圧は険しいもので、ついにはバーバラと共謀したあらぬ殺人容疑までが彼に掛けられてしまう。冤罪を晴らそうと躍起になるなか、レイの秘められた怪しげな言動の痕跡がショーンの目にとまり、やがて事態はロス全体を巻き込んだ重大な陰謀劇の露見へと発展していく。

 2001年のアメリカ作品。作者スティーヴン・キャネルは1995年に作家としてデビューする以前は『ロックフォード(氏)の事件メモ』『アメリカン・ヒーロー』『特攻野郎Aチーム』などのヒット作テレビシリーズを手がけた辣腕プロデューサー。世代人の評者は当然、全部観ている(『ロックフォード』のまともな日本語版の映像ソフト商品、そしてノベライズの翻訳とか出ないものかなあ)。
 さらに『サンセット77』の原作者(テレビ企画の文芸担当)ロイ・ハギンズとも交流があり(そもそも『ロックフォード』がそのハギンズとの共同企画だ)、本書『追われる警官』も「仕事仲間にして師、ゴッドファザーであるロイ・ハギンズに捧げる」と冒頭の献辞が贈られている。これで読まないわけにいられようか。
 内容は本文530頁以上に及ぶ大冊で、そのボリュームに応じた読み応え(ただし名前の出てくる登場人物は40人オーバーだから、紙幅の割にはそんなには多くはない)。さすがテレビ屋さんの書いたエンターテインメントだけあって筋運びに停滞はなく、物語の前面へのキャラクターの出し入れも潤滑なハイテンポな作品。主人公ショーンの窮地とその反撃の流れを数回にわたって揺り戻しながら、最後までほぼ一気に読ませる。
 ちなみに一部のキャラクター配置がいかにもマス視聴者(というか本書のこの場合は読者)の目線を意識した実力派プロデューサーの作品という感じで、物語の前半に出てくる某キャラクターが「あー、後半、このキャラは主人公とこういう関係性になるんだろうな」と予期していると、まんま期待に応えてくれたのには笑ってしまった。いや馬鹿にしてるのではなく、ちゃんと定型の作劇のツボとその演出を心得ているとホメているのである。

 終盤に明かされる事件の真相の奇妙な? リアリティをふくめて全体的によく出来た快作だとは思うが、難点を言えばよくまとまりすぎている感触がいささか小癪なところ。
 ただし一方で、主人公ショーンのサイドストーリーとして語られる(事件にもそれなりにからんでくる)、ある事情から彼が自宅で後見している不良少年チャールズ(チューチ)・サンドヴァルとの絆の物語など、スペンサーものの『初秋』路線のような趣の文芸性で印象に残る。合間合間に挿入される、ショーンが彼の父親宛に書き続ける心情吐露の私信も効果を上げている。

 Wikipediaを見るとショーンを主人公にした作品は本書を第一弾として、その後もシリーズが数作品書き続けられたらしいがどれも未訳。何らかの弾みで日本で邦訳紹介が再開されることでもあればイイのだが。 

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