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ミステリの祭典

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こんな探偵小説が読みたい―幻の探偵作家を求めて
鮎川哲也(インタビュー&再録作品の選定)

作家 アンソロジー(国内編集者)
出版日1992年09月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 人並由真
(2019/06/04 03:09登録)
(ネタバレなし)
 同じ鮎川による<マイナーな探偵小説作家の業績を発掘する、インタビュー&実作アンソロジー>の先行書『幻の探偵作家を求めて』に続く第二弾。
 前巻は雑誌「幻影城」での連載記事&発掘作品が主体だったが、今度は雑誌「EQ」での同系列企画の記事をベースにしている。

 対象作家と再録作品(短編)は以下の通り。なお一部の再録作品は、「EQ」連載時のものと異同がある。
①今様赤ひげ先生・羽志主水(はし もんど)/『監獄部屋』(「新青年』1926年3月号)
②実直なグロテスキスト・潮寒二(うしお かんじ)/『蚯蚓(みみず)の恐怖』(「探偵実話」1955年11月号)
③夭折した浪漫趣味者・渡辺温(わたなべ おん)/『可哀相な姉』(「新青年」1927年10月号)
④ただ一度のペンネーム・独多甚九(どくた じんく)/『網膜物語』(「宝石」1947年2・3月号)
⑤初の乱歩特集を編んだ・大慈宗一郎(だいじ そういちろう)『雪空』(「探偵文学」1936年新年号)
⑥『Zの悲劇』も訳した技巧派・岩田賛(いわた さん)/『里見夫人の衣裳鞄(トランク)』(「探偵クラブ」1952年6月増刊号)
⑦「宝石」三編同時掲載の快挙・竹村直伸(たけむら なおのぶ)/『風の便り』(「別冊宝石』」1958年2月号)
⑧草原(バルガ)に消えた郷警部・大庭武年(おおば たけとし)/『牧師服の男』(「犯罪実話」1932年5月号)
⑨名編集長交遊録・九鬼紫郎(くき しろう)/『豹助、都へ行く』(「ぷろふいる」1947年4月号)
⑩薬学博士のダンディズム・白井竜三(しらい りゅうぞう)/『渦の記憶』(「別冊クイーンズマガジン」1960年7月夏季号)
⑪「宝石」新人大貫進(おおぬき しん)の正体・藤井礼子(ふじい れいこ)/『初釜』(「宝石」1960年2月臨時増刊号)
⑫「めどうさ」に託した情熱・阿知波五郎(あちわ ごろう)/『墓』(「別冊宝石」1951年12月号)

 渡辺温や九鬼紫郎は本書刊行の時点でも、ミステリマニアにはそれなりにメジャーだったと思う。
 いかにも鮎川のエッセイらしい朴訥なミステリへの愛情と、始終からかいながらも深い信頼のほどが覗える山前譲さんとの連携ぶりもあって、それぞれのインタビュー(本人またはご遺族の方)記事が実に楽しい。そのせいか、併録された実作短編にもある種の立体感が見受けられて、今回は12編全部がそれなり~かなりに面白かった。
 
 いくつか再録された実作に際して、寸評&感想。
『監獄部屋』は今となってはよくあるパターンだが、この作品が作者の代表作でさらに世の中にも特に有名な一編だったということは、のちに書かれた多くの模倣作品のこれこそが原点なのだろう。そういう意味では間違いなく傑作。
『蚯蚓(みみず)の恐怖』はグロさに加えて、スレッサー風のオチが効いた秀作。
『可哀相な姉』は再読だが、なんともいいがたいイヤミスの先駆で、これも傑作。
『網膜物語』は名のみ知っていたが、ああ、こういう話だったのね。
『雪空』は文芸味がしみじみと来る、本書の中でも個人的に惹かれた秀作。
『風の便り』は、本書で素ではじめて読んだ作品の中では、これが一番良かったかな。二転三転する筋運びの凝縮感に満足。
『渦の記憶』は医学ミステリ……というより、これはもう綺譚風のSFだな。医療の見識がかなり現代的だと思ったら、初出誌を知って納得。本書の中では比較的後年の一編だった。
『初釜』ホワットダニットとホワイダニットの組み合わせから浮かび上がる、人間の切なさ。佳作。
『墓』エリン……というよりはもうちょっと泥臭い、ボーモントあたりの筆致で書いたロバート・ブロックのような奇妙な味。悪酔いしそうな後味がいい……かもしれない(笑)。

 なお前巻にあたる分は「幻影城」誌上でつまみ食いした覚えはあるが、まとめて一冊で読んだ覚えがない。こういう楽しさならそっちもそのうち改めて読んでみよう。とはいえ21世紀の今だと、発掘・再評価が進んだ作家も多くて、結局はこの二冊目の方が新鮮に楽しめる、というオチになりそうな気もするが(笑)。

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