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ミステリの祭典

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死者の殺人

作家 城昌幸
出版日1960年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2019/05/31 02:59登録)
(ネタバレなし)
 その年の4月はじめ。静岡県奥津の××村にある洋館作りの屋敷に、20歳の若者から初老の年代まであわせて7人の男女が集まる。彼らはみな、屋敷の主人である山座仙次郎の招待を受けた者だが、当の仙次郎は一同に顔を合わすこともなく別の場で危篤状態のようだった。ここで仙次郎の遺言執行役と称する土地の医者・川田が言うことには、仙次郎は総額700万円以上の遺産を用意してあり、それを参集した者に分配するつもりだが、そのためには川田が許可を下すまでこの屋敷にいなければならず、退去した者は相続権を失うとのことだった。だがそんな中、屋敷の周囲には謎の白い幽霊の影がちらつき、さらに本当は全員で10人呼ばれていた仙次郎の招待客のうち、屋敷に来ることのなかった人物・御厨(みくりや)の縊死死体が屋敷の周辺で見つかる。さらに屋敷の中からは突然の急死、恐怖におびえての逃亡などで、招待客がひとりまたひとりと減っていき……。

 長編第1作『金紅樹の秘密』の5年後に刊行された、作者の長編の第二弾(書下ろし作品)。クローズドサークルというわけではないが一種の舘ものといえる趣の作品の上、7人の招待客(本当は10人呼ばれていた)がどういう共通項で集められたかは、終盤まで読者にははっきり明かされない。その意味ではミッシング・リンクものといえる要素も兼ね備えている。

 そもそも評者が今回、本書を手に取ったのは、少し前に読んだ『金紅樹の秘密』の独特な印象もさながら、中島河太郎の「推理小説事典」の中の本作についての記述(城昌幸の項目の中にアリ)「その解明が風変わりで『有り得ないとは云えない線ギリギリのところ』を描いた異色編である」という文言にすごく興味を刺激されたからだった。こんなことを聞かされれば「何ソレ読みてぇー、どんなモンが待ってるのか、ワクワク♪」となるのが、健全なミステリファンだよね(そうか?)。
 でもって実作の中身は、本文の活字の級数は大きめだわ、会話は多いわ、登場人物はメインキャラだけ固有名詞表記で、モブ的な警官とか近所の旅館の番頭や仲居なんかは具体的な名前すら一切書かないわ……と割り切った作法・本の仕様でとても読みやすい。280頁前後の作品をメモを取りながら、二時間もかからすに通読できた。さらに読んでる間は、大小のイベントが続出でまったく退屈しない。これで最後にどんなものが……と思っていたら、とんでもないものが来た!(汗)。もちろんここでは、何も書かないけれど。

 ……いや、当事者の思考として<そういうこと>を真剣に考える人がいたというのは、小説作中のリアルとしてアリであり、実を言うとその思考ロジックは80年代以降の<ある新本格作品の印象的な一編>と一脈、通じるものがある……ような気がする。

 個人的にはすごくぶっとんだ発想でオモシロかったけど、いくらでも怒る人がいても止められないような作品でもある。少なくとも河太郎はウソは言っていなかった。気になった人、いつか読んで笑うなり喜ぶなり、怒るなりしてください。古書で1000円以下なら、酔狂なものを楽しむつもりで安いとは思います(笑)。

【2019年5月31日9時頃・追記】
 ……と、一回は割と褒めるように? 書いたけれど、少し間を置くと、また考えが変ったのでそれを追記。
 悪く言えば本作の度外れた着想は子供の思いつきのようなもので、たとえばこれが当時、ロジックや伏線、トリックを真面目に考えている推理作家文壇のなかで半ば総スカンを喰ったとしても、やむをえない面もある。このアイデアがOKならば、かなりのことがアリになってしまう、その手の趣向だといえるからだ。作者が長編ミステリを二作で止めたのは、それも自然な流れだったのかなとも思う。
 ただしインパクトがあったのは事実だし、物語の話術にそれなりの快いテンポは今でも認めるので、評点は当初のままに。

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