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ミステリの祭典

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ナッシング・ハート
パーム 第1、2話

作家 獣木野生
出版日1985年02月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点
(2020/05/14 12:42登録)
 1971年、アメリカ。出生時に母イライザを失ったマイケル・ネガットはマフィアのボスである叔父アーサーに引き取られ、ニューヨーク郊外の広大な屋敷で使用人パデュラ家の人々と、11歳になるまで家族同然に暮らしていた。4歳にして国立シンクタンク・サウスワース戦略研究所の研修生となり、天才少年の片鱗を見せるマイケル。姉の死の直後、まだ乳児のマイケルを養子に迎えたアーサーはなぜか、そんな彼を疎む。
 けれどマイケルには乳母のマリア・パデュラとその息子・イライがいた。イライの兄ウォルトが肺炎で死んだ夜、マリアは腕の中で抱きしめた彼に言い聞かせる。愛は何度でも蘇ると。それを傷つけるものは決してないのだと。
 だがある日突然シンジケートに恨みを抱く誘拐犯の凶弾が、幸せな日々を過ごすマイケルたちを引き裂くのだった・・・
 三原順『はみだしっ子』の系譜に連なる大河オムニバス長編漫画作品『パーム』の第1話にあたるもので、雑誌「WINGS」1984年4月号~7月号掲載。シリーズ自体は1983年同誌掲載のパイロット版第0話『お豆の半分』に始まり、それから延々36年の歳月を経てやっと2019年、最終章となる第10話『TASK』に到達。現在も引き続き同誌にて連載中。作者は本編の企画を通す際「11歳の子供が人を殺す話」と、編集者にいいかげんな説明をしたそうです。
 元医者の私立探偵カーター・オーガス、跳躍的思考で周囲を振り回すその助手ジェームス・ブライアン、彼とは目に見えぬ繋がりを持つ野生児アンドルー・グラスゴー。因縁の織りなす運命で結ばれた三人を中心にして綴られる物語。長編シリーズとしてはジョン・アーヴィング『ガープの世界』などポストモダン文学の影響を受けており、この第1話は天才少年マイケル・ネガットが、ジェームス・ブライアンとなることを運命付けられる発端の話。巻頭にカート・ヴォネガット・ジュニア『スローターハウス5』中のエピグラフ"何もかもが美しく、傷つけるものはなかった。(EVERYTHING WAS BEAUTIFUL,AND NOTHING HEART)"が掲げられ、それがそのままテーマ=タイトルに。
 陰影の濃い独特の絵柄で描かれるのは、少女漫画らしからぬハードなストーリー。映画的なタッチで〈生きる事を拒まれた子供〉のサバイバルドラマが展開。このあたりはまだ序盤ですが、話数を重ねるにつれ登場人物たちの上に、どんどん苛酷な運命が積み重なっていきます。
 ただし本領はギャグの方。『はみだしっ子』もそうですが、〈現実がヤバい時ほど、笑ってなきゃやってられない〉。聞いてる人が引き攣るほどの切れ味や、逆に心に染み入るようなセリフは、胸に響きます。本作や既に登録済みの『星の歴史』は、ギャグ成分少なめのシリアス寄りですが。
 WINGS版コミックス2巻にはアンディ初登場の第2話『胸の太鼓』、スター・システム短編『金銀熊鮫』も同時収録。『金銀熊鮫』は・・・まあ、なるべく早く忘れて下さい。

 「ああ、この背中のジョーズの入れ墨に誓うぜ」

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