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ミステリの祭典

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断頭台(角川文庫版)

作家 山村正夫
出版日1984年05月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 人並由真
(2019/05/24 20:55登録)
(ネタバレなし)
 作者の1959年から1970年まで約10年にわたるノンシリーズ中短編を6本まとめた一冊。元版カイガイ・ノベルスの巻末には、青山大学系列の後輩作家で交流の深い森村誠一との対談を付加。

 カイガイ・ノベルス版の表紙には「異常残酷ミステリー」なる惹句が表示されていたが、本書もまたその通り、特殊・異常な心理ゆえに実行された逆説に満ちた犯罪=ホワイダニットのミステリを主軸にまとめた一冊。
 文庫版の収録作は以下の通り。

「断頭台」(初出:「宝石」1959年2月 以下同)
「女雛」(「宝石」1963年3月)
「ノスタルジア」(「推理文学」1970年10月)
「短剣」(「推理ストーリー」1965年12月)
「天使」(「宝石」1962年5月)
「暗い独房」(「宝石」1960年3月)

 表題作は、フランス革命の首切り役人を演じる役者の入れ込み具合が主題だが、個人的にはこれが一番フツーの出来。巻末の対談で森村はある種の深読みをしているが、評者にすればその見解はいささか観念遊戯が過ぎると思う。
 それで次の「女雛」は、この作者はこういうものを書けるのか!? と驚かされた秀作。事件の真相への迫り具合に不満な人もいそうだが、個人的には余韻があって良いと思う。のちの、雑誌「幻影城」の新世代作家たちの何人かが目指した方向の、その先駆となるような作品だとも実感(現実にどのくらい影響を与えていたかは、もちろん知る由もないのだが)。
「ノスタルジア」が連想させるのはあの手塚治虫作品、または……と、これ以上書くとネタバレになりそうなので止めるが、本書中では、この短編集の主題のフィールドに一応はとどまりながら、一方でギリギリの枠内……ともいえる一本。悪くはないが、これと表題作が本書中では下位の方だろう。
「短剣」は風俗描写などに現代との相応の違和感はあるが、これこそ正に「幻影城」新世代作家群とリンクするような、そういった種類の意外な逆説に支えられた真相。キーパーソンの心理を考えると、それがどこまでもいびつながら同時に限りなく切なくもあり、しみじみと印象に残る。
「天使」は収録作品中、最も長い一編だが、舞台装置、登場人物の配置、主題、真相の意外性、物語の余韻……その全部において実に鮮烈な優秀作。これもまた「幻影城」系の某作家の<あの名作>を思わせる。これ一本読めただけでもこの本を手にして良かった。
「暗い独房」常識・倫理の基準の誤差を主題とした逆説テーマ。ただし本書の収録作品中、一番時代に負けてしまった作品かもしれない。1990年代から21世紀の現代までの現実なら、こんな人間どこにでもいるしねえ。それでも話の転がし方は巧妙だと思うし、あくまで半世紀前の旧作という勘案の上で秀作。

 前述の通り評者としては今回この本の「女雛」でかなり驚かされ、「短剣」で軽く唸り、そして「天使」で本気で止めをさされた。
 これまで実作者としては三流とまではいかないが、一流半~二流くらいに思っていた作者(すみません……)をかなり見直した一冊。国産ミステリのノンシリーズ短編集としては、個人的に上位クラスである。
 
 余談ながら本書は元版も角川文庫版もAmazonの古書価あたりはメチャクチャ高いみたいだが、数ヶ月前に赴いた、たまに利用するブックオフで角川文庫版を108円で買えた(嬉)。しかし、これで今年の運を使い切ったんで無ければいいけれど(汗)。

【2023年6月26日】
 メルカトルさんの本日の山村作品のレビュー『断頭台/疫病』を拝読して、当方の書いた書誌情報に誤認かあったようなので、改訂しました。ご迷惑をおかけしました。メルカトルさん、ありがとうございます。

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