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ミステリの祭典

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野望の猟犬

作家 三好徹
出版日1965年01月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2019/05/16 19:57登録)
(ネタバレなし)
 四半世紀にわたって永田町の裏も表も見続けてきた、業界紙(タブロイド紙)「政界新報」の発行人にして編集主幹である60歳の太刀川。そんな彼は「槍の太刀川」の異名で斯界では一目置かれていた。現在の政界新報は、半官半民の大手電気会社「電力資源」が計画した北アルプスの大型ダム工事に建築界の不正入札があった疑惑に迫っていた。だが同社の社内で太刀川が射殺され、しかもその殺害されたはずの時間には、周囲にいるはずの犯人の姿が確認されない不可思議な状況だった。政界新報の若手記者・福地健介は太刀川の死の真相を追うが、やがて何物かが太刀川が公開しかけた新聞記事を闇に葬った痕跡が明らかになってくる。
 
 昭和期の政界の黒い霧に切り込んだ社会派ミステリ。1960年代半ば、建築界の東京オリンピック景気が一段落して、70年代初頭の列島改造ブームが来る前の時節の作品である。小説内の記述(作者の取材)が正確なら、もうこの60年代半ばの時点で国内に大型ダムを造る場所は開発しつくされていたそうで、これはひとつ勉強になった。
 物語の3分の1を過ぎたあたりから、青年主人公・健介からの視点を主体に、太刀川の殺害事件を追う警視庁の捜査陣の描写を随所にまじえた立体的な展開になるが、そのなかで、絶対に外部に漏れないハズのとある建設会社の入札提示額がどのように漏洩したかという一種のハウダニットの謎も提示され、なかなか読み応えがある。扱う主題に沿ったメッセージ性の強い作品ながら、最後はちゃんと太刀川殺害の謎についてフーダニットとハウダニットの興味を満足させているのは一応の評価。

 難点は登場人物が多すぎて読みにくい(その分、事件の構造もくどい感じがする)、さらに中盤の健介の出張取材時の回想など、時間の推移が読み取りにくい(どうしても時勢的に行ったり来たりをしたいのなら、章ごとの最初に日付を入れてほしかった)……といった辺りが、ちょっとキツイところ。ラストも当時の大人向けの小説っぽい苦みを狙ったんだろうと思うけれど、今これをやったら単なる厨二的な照れ隠しだよね。
 あとこないだ読んだ佐野洋の『再婚旅行』もそうだったんだけれど、どうしてこう新聞記者出身の昭和期の作家の長編って、登場人物の描写が簡素というかそっけない(ビジュアル的に体格がどうとか、日焼けしてるとかそうでないとか書かない)んだろ。本作も全部が全部というわけではないけれど、かなりの登場人物の叙述がそんな感じである(特に前半から中盤にかけて)。まあ通例の新聞記事なんてズバリ、人物の情報は名前・素性・年齢だけ書けばいいのだろうが。

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