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ミステリの祭典

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星の歴史―殺人衝動―
パーム 第5話

作家 獣木野生
出版日1988年04月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点
(2021/04/28 09:51登録)
 1980年アメリカ。荒みきった環境に育った黒人青年ボアズ・ウルマンは身を持ち崩し、トラブルから取り引き相手を射殺して実刑判決を受ける。ボアズが収監されたのは奇妙な雰囲気の刑務所。そこにはロナルド・エリーの組織から逃れ、少刑から成年刑務所に移されたかつての天才少年マイケル・ネガットこと、ジェームス・ブライアンがいた。ジェームスはボアズに近づこうとするが、あくまで白人を嫌う彼に拒絶される。しかしある事件と「星の歴史」という短い詩を切っ掛けにボアズはわだかまりを捨て、ジェームスを受け入れ更生への道を歩むのだった。
 刑務所内での穏やかな日々は過ぎ、やがてジェームスは元医者の私立探偵カーター・オーガスに出会い出所を決意する。一人取り残される形のボアズ。手続きを進めてきたジェームスの弁護士ジョン・ミハリクは、慟哭するボアズの肩を優しく抱いて告げる。

 「彼が本当に君が言った様な男なら、けっして君を忘れたりしないさ。ここを出たら真っ先に訪ねていってごらん。きっと、喜んで迎えてくれる筈だ」

 1年後のクリスマスの夜、出所してロサンゼルスのオーガス家を訪れたボアズは、ミハリクの言葉通り再会したジェームスに抱きしめられる。ナイトクラブでウェイターをする傍らアンディとバンドを組み、音楽の道に進もうとするボアズ。だがジェームスの過去の宿業が招く最大の危機は、彼らの間近に迫っていた・・・
 主人公ジェームス・ブライアンと大量殺人鬼の宿命的な対決を描くオムニバス長編漫画作品『パーム』の第5話で、雑誌「WINGS」1987年7月号~1988年11月号掲載。前半部の締め括りとなるだけに内容もハードで、コミック最終10巻はほぼおちゃらけ無し。ここまであらゆるものを傍若無人になぎ倒してきたジェームスが、初めて対等以上の相手にぶつかりえらい目に遭う。連載中の特に後半、本性を現した殺人鬼サロニーが舞台に上がってからの緊張感はハンパではなく、いきなりシリーズのテンションが上ってびびったのを覚えている。少なくとも少女マンガの範疇ではない。
 副主人公を務めるボアズの設定と、アットホームとは言え監獄舞台で始まるのも思い切り良いが、特筆すべきはやはりジェームスを狙うエティアス・サロニー。ボアズを罠に嵌めボスのカーターを拉致し、足場を削るように標的ジェームスを追い詰めていく。コントラストの強い絵柄も相俟ってイメージ的にはまさに死神(後にほぼその通りなのが分かるが)。「お前は死にたがっている」と囁きながら迫ってくる、単なるシリアルキラーを超えた存在である。ボアズを監禁した彼からの呼び出しを受け、傷つきながらも死を賭して最終的な決着に赴くジェームスのセリフが良いのだな。

 「俺にはあまり―― ここが本当に自分の場所だと思える所はなかった」「だがこの家は違った。別に・・・何のことはない。ただあんたたちが俺を見る時のその目が――・・・・・・他の誰とも違うような気がしたんだ」

 第3話『あるはずのない海』を思い起こさせるシーンで、これに続く二人の決闘描写もシリアスそのもの。サロニーは作者自身にとっても突如降って湧いたように現れた大悪役だそうだが、それに恥じない緊張感で全篇を支えている。色々と枠を超えた凄みのある作品で、採点は7.5点~8点の間。

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