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ミステリの祭典

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ブロードウェイの出来事

作家 デイモン・ラニアン
出版日1987年12月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 人並由真
(2019/05/13 17:18登録)
(ネタバレなし)
 禁酒法時代(1920~33年)をふくむ30~40年代のアメリカ市民の人間模様を活写し、特にブロードウェイを舞台に、小悪党や若い娘たちを主要キャラとした連作的な短編群で、世代を超えて親しまれるデイモン・ラニアン。日本では60~70年代の「日本版マンハント」「ミステリマガジン(日本語版EQMM)」そのほかで随時紹介され、その頃からミステリファンを主軸とする幅広い読書人の絶大な支持を集めていた。
 O・ヘンリーを思わせる庶民ストーリーと人情譚風のヒューマンドラマは時に狭義のミステリの枠から離れかけることもあるが、一方でE・クイーンなどは、ラニアンの代表的な(原書の)短編集『野郎どもと女たち(Guys and Dolls)』(同題の日本語版の短編集とは収録作品が異なる)を、ちゃんとあの「クイーンの定員」の一冊に選んでいる。評者の私見では、もっともイキな「クイーンの定員」のセレクトのひとつ(嬉)。

 本書『ブロードウェイの出来事』は、ラニアンの作品群を日本に広く紹介し、その魅力を認識させた翻訳者・加島祥造が先行する『野郎どもと女たち(日本版)』に続けて日本独自のセレクトで集成した二冊目の短編集。
 元版は1977年9月15日の奥付で単行本が出ていたが、のちにラニアン短編集の叢書「ブロードウェイ物語」シリーズの第二巻『ブロードウェイ物語2 ブロードウェイの出来事』(87年11月)として新装再刊されたようである。今回、評者は元版で読了。

内容は
「レモン・ドロップ・キッド」 The Lemon Drop Kid
「三人の賢者」 Three Three Wise Guys
「マダム・ラ・ギンプ」 Madame la Gimp
「ブロードウェイの出来事」 Broadway Incident
「ユーモアのセンス」 Sense of Humor
「世界一のお尋ね者」 The Hottest Guy in the World
「世界一のタフ・ガイ」 Tobias the Terrible
「ダンシング・ダンのクリスマス」 Dancing Dan's Christmas
と、先にHMMなどに翻訳掲載されたものの再録をふくめて8本の短編が収録されている。

 ラニアンくらい、その魅力を知ってる人には「語る言葉など不要」で、かたやまだその魅力を知らない人には「実作をまず2~3本読んでください」という言葉が似合う作家はいない、という気もする。とにかく当時のアメリカの下流中流社会の庶民を鮮やかに描きながら、時に真っ当な人情で事態が好転する場合もあれば、人生や運命の苦い皮肉で物語を意地悪くまとめることもある。でもその底流にある「人間って素晴らしく、そしてくだらない」という独特のペーソス感(のようなもの)は何物にも代えがたい。

 今回の読書は一二編を除いて大半が再読だと思うが、加島訳の素晴らしさもあってその世界をみっちり堪能した。8本の中から一編もし個人的に選ぶとすれば、やはりマイベストは「レモン・ドロップ・キッド」かな。主人公もヒロインも、あの重要なサブキャラもそしてラストのこれぞ……という味わいも大好きだ。まあほかの作品との評価差なんて本当に僅差なのだが。
 ちなみに今回再読してみて、意外にラニアン作品は(少なくとも本書に収録分は)記憶していた以上にクライム・ノワール的な意味でのミステリ味が時に濃厚なのに気がついた。「ブロードウェイの出来事」「ユーモアのセンス」あたりはその意味でもツイストの利いた秀作だね。

 あと再発見としては、ラニアンのブロードウェイものは世界観が同軸の基盤にあっても、同じ登場人物は出てこないと今まで認識していたが、実際には「世界一のタフ・ガイ」 と「ダンシング・ダンのクリスマス」の双方に顔を出す酒場の主人「グッド・タイム・チャーリー」など例外もいるみたいだったんだな。これは楽しい発見だった。
 まあとっくに知っているラニアンファンには、何を今さら(笑)の事実かもしれないが。

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